3(完)
「ブン太は、そんマフラー彼氏にあげるん?」
ブン太の心中にも気付かず仁王が嬉しそうに尋ねた。
「っ、え、あっ…うん、まあ彼氏ってわけじゃねえけど」
「はは照れとる」
口籠もるブン太に楽しそうに笑う。
「やめろってー」
「大好きな奴にあげる気やろ」
「まぁ…」
「お待たせっす」
その時、教室の扉が勢い良く開いた。
その声に慌てて仁王は席を立つ。
「仁王、先輩?」
「赤也おせえー!!」
驚いてる赤也に飛び掛かるとブン太は頬をつねった。
「いだっ、ちょ、すんません!購買行ってました…」
「オレをおいて…?」
「ひぃっ、マジすんませんっ!あ、でもどしたんすか?」
頬を擦る赤也を睨み付けるが、赤也が仁王に視線を向けた。
ブン太も赤也に向き直ると説明を始めた。
「ああ、そうなんだ。仁王さんな」
「うん」
「仁王さん…?」
出来たばかりの友達と。
「えっ、あ、違う!マサな」
「マサ?」
経緯のわからない後輩の間で慌てるブン太。
「うん!そう、マサ!マサな手芸部に入部したんだ!腹巻3つも作ったんだって、すごくね?」
「そうなんすかー」
「さっき思いっきり友達になったもんな!」
「…おん。よろしく」
隣に駆け寄ってきたブン太に頷くと、仁王は赤也の方に向き挨拶をした。
「よろしくっす!俺も、マサ先輩って呼んでいいっすか?俺の事は赤也でいいんで」
赤也もすっかり尊敬の様子で仁王と挨拶を交わす。
「ああ」
仁王も笑顔で頷く。
「ちょっとお嬢さん達?俺の事忘れてないかな」
「あー!そうでした、この人は」
突然聞こえた声に慌てて紹介をする赤也の言葉を遮る。
「俺は精市。テニス部なんだ。よろしくね、マサ」
「精、ちゃん」
差し出された右手に戸惑いながら、仁王も右手を差し出した。
そして仁王は嬉しそうに顔を見ながら3人の名前を口にした。
「ブン太、赤也、精ちゃん」
「精ちゃんはな、中等部のテニス部で部長なんだぜ!」
「格好良いんっすよ!」
「なー?」
はしゃぐようにブン太と赤也が幸村の紹介を始めた。
「ふふ、そんな事ないよ。高等部の蓮二先輩の方が格好良いよ」
「違いますよ、幸村先輩は身近だからいいんですってば。俺達のヒーローなんすから」
謙遜する幸村に赤也が答える。
「…ヒーローって2人とも。そんな事ばかり言ってるから彼氏出来ないんだよ?」
「「えっ?精ちゃん(幸村先輩)彼氏いるの?」」
幸村の言葉に驚くブン太と赤也。
「いるわけないだろ?俺はいいんだ、俺は今テニスが彼氏だから」
「よかった…」
幸村の返事に安堵すると、2人は幸村に駆け寄る。
「そうですよね!こうやって女の子同士でワイワイやってるのがいいんですもん!」
「なー!」
赤也の言葉にブン太も頷く。
「けどブン太は、こんマフラー彼氏にあげるんやろ、クリスマスに」
しかし仁王の言葉に慌てて振り返ると、机に置いたままだった編み掛けのマフラーを取り出していた。
「あっ、ちょ、ちょっと!」
「そうなんだ。そんな人いたんだ?」
慌てて隠すブン太を余所に、幸村は嬉しそうに尋ねる。
「いや、そんな奴いねえっ!」
「だってさっき、大好きな奴にあげるって」
「しーっ」
赤也も机の前に立つと、同じく編み掛けのマフラーを背に隠していた。が。
「あれ、赤也もか?」
「あっ!」
仁王の言葉に慌てて振り返る。
「2人ともみずくさいな。そんな人がいたなら教えてよ」
「ちっ、違うんす!っと、これは、えっと」
「っ、精ちゃんなんだ!!」
誤魔化す理由を考える赤也の言葉を遮って聞こえたブン太の声に、3人の視線が向く。
「え?」
「…、精ちゃんにあげようと思って、赤也と2人で編んでたんだ…」
視線を逸らしたままブン太が話す。
「ちょ、ブン太先輩っ」
「もうしょうがねえよ、ばれちゃってもいいって…変な誤解されるよりいいよ、っ」
「ブン太先輩…」
「…、っ、ごめんな精ちゃん…ホントは内緒にしてて…終業式、いや、クリスマスまでにプレゼントしようと思って編んでたんだけど、こんな形でばれちゃって…」
「…ぴよっ」
ブン太の言葉に何かに気付いた仁王は慌てて視線を背けた。
「何か今オレ、精ちゃんに対してすげえマジみたいな流れになってる…や、ある意味マジではあるんだけど…何かオレ、キモくてごめんっ!」
「ううん」
顔を覆って告げるブン太に幸村は静かに首を振る。
「ホントキモいよな…ごめん…」
「ブン太先輩っ、俺もっすよ〜っ。俺も本気ですよぉ…ブン太先輩に負けたくなくて幸村先輩と内緒で購買行っちゃいました…俺もキモいっすよぉっ…」
赤也はそんなブン太に駆け寄ると2人でその場に泣き崩れた。
「ちょっと、2人とも泣き止んで。…俺嬉しいよ?」
「え?」
啜り泣く2人に幸村は優しく告げる。
「だって、2人が俺の事そんなに思っていてくれて、内緒で手編みのプレゼントまで準備していてくれて…嬉しくないわけないだろ?」
「っホント?」
幸村の言葉に恐る恐る顔を上げる。
「本当だよ。ありがとう、ブン太、赤也。俺、2人のマフラー楽しみに待ってるよ」
「っ、精ちゃーん」
その笑顔に、幸村に抱きつく。
「ほらほら泣かないの。せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」
「っ、…あの、何か…俺んせいで…すまんかった…」
自分が余計な事を言ってしまった事に、立ち上がると仁王が頭を下げた。
「マサのせいじゃないよ、気にしないで。俺、本当に嬉しいよ。誰かが自分の事を思って、何かを作ってくれるなんて凄い事だよ。それが男の子だろうが女の子だろうが関係ないよ、ね?」
腕の中で泣き続ける2人に微笑えば、2人も頷く。
「実はね、去年のクリスマスにも女の子から手編みのプレゼントを貰って嬉しかったんだ」
「「えっ?」」
思いもしなかった幸村の告白に涙も治まった2人が顔を上げた。
「何すかそれ、聞いてない…」
「えっ、中等部の奴?」
「違うよ、遠くにいる友達」
「何貰ったんすか?マフラー?セーター?手袋?」
「ううん、腹巻」
思わず詰め寄る赤也に幸村は落ち着いて答える。
そして俯いていた仁王の視線が幸村に向く。
「腹巻?」
「うん、今もしてるよ、ホラ」
そう言うと幸村は、ブレザーの前を捲る。
「…何で、腹巻なんすか」
制服を正ながら答える。
「俺が寒がりだって手紙に書いたのを覚えててくれたんだ」
「…それって、…九州にいるペンフレンド…?」
「え、どうして知ってるの?」
「あ゛ぁ゛ー…」
幸村の言葉に呆然とするブン太を赤也が追いかける。
「え、ちょっとどしたんすか、ブン太先輩」
「におつ…仁王、さん…」
「え?」
幸村と赤也の視線が仁王に向く。
「…っ」
仁王がブレザーの前を捲ると、幸村と同じ腹巻が。
「!?ぴよちゃん?」
「ゆっきー?」
「ぴよちゃんっ」
驚いた幸村が仁王に駆け寄る。
「どうして?何でここにいるの?」
「転校したっちゃ…」
「夏休み過ぎたら全然手紙くれなくなったから心配したんだよ?どうして連絡くれないの…」
「っ、俺こんなやし、喋るのも苦手やけん…それにゆっきーは絶対素敵な人やろ思っとったし、絶対会ったらいかんって…」
「何言ってるの、ぴよちゃんだって素敵だよ。寒がりな俺のために、腹巻を編んでくれる優しい子じゃない。友達のために泣ける、優しい子じゃない」
「ゆっきー…っ…ゆっき…」
「ほーら、泣かないで。涙を拭いて、ね?」
言うと啜り泣く仁王のメガネを外してやる。
「…お、ん…」
涙を拭い、顔を上げた仁王と視線がぶつかる。
「「っ!?」」
その瞬間、ブン太と赤也には何かが始まる予感がした。
「…っ、ぴよちゃん…」
「…ん?」
「メガネ外した方が、可愛い、ね」
途端に赤らむ仁王の頬。
「「……え゛え゛ぇぇっっ!?」」
そして放課後の被服室に、ブン太と赤也の悲鳴が響いたのだった。
おわり
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