月は太陽に恋をしたA


あの花火大会後も、俺達の関係は今まで通りだった。


変わった事と言えば、ブン太を抱いた事。




期末テスト最終日、学校も半日で終わる為、今年も部活仲間が少し早くクリスマスと兼ねて俺の誕生日を祝ってくれた。
ただ騒ぎたい年頃でもあるのだが。



しかし、せっかく恋人として初めて迎える俺の誕生日を、2人で過ごせなかったと帰り道のブン太はずっと口数少ないまま、かなり不貞腐れていた。



「…ブーンちゃん、俺は気持ちだけで嬉しいナリ」


「………やだ」


「……じゃあ、クリスマスは、帰り俺んちに寄りんしゃい」


「………いつもと同じじゃん」


「…次の日から冬休みだし、泊まればいいじゃろ」


「…えっ?」


「クリスマスのプレゼントには、ブン太が欲しい」




今までもキスはした事があったし、好きな相手を前に欲情した事がないと言ったらウソになる。
だけど何より、抱く事により精神的に身体的にも負担をかけたくなかった。
しかし今回ばかりは少し違う。


ジッと目を見つめてそう告げると、顔を赤くしてキョロキョロあたりを見渡した。

肩を抱き寄せ、今度は耳元で名前を囁けば、更に真っ赤な顔をして「な、んで…え??」と、図星だったらしく、慌てる様子が可愛くて抱き締めた。

そして、「プレゼント、ブン太が欲しい…ブン太と、ひとつになりたい」、と伝えると、まだ赤い顔のまま深呼吸した後、「オレ…高いんだからな、」と、腕の中から強気な返事が聞こえた。









最高学年になり、全国三連覇を目指した夏の大会。

俺達は全国2位と言う悔しい結果で終わってしまった。


この大会直前、ブン太と喧嘩をした。
簡単に言えばブン太のヤキモチ。
だけど悪かったのは明らかに俺の方。
他の連中にも秘密な、ある作戦の為、休み時間や部活中、ダブルスパートナーの柳生と過ごす事が多くなっていた。
それを浮気だと思い込んだブン太が、目が合えば睨み付けるくせに、話し掛ければ俺達2人を完全無視したのだ。



これまで些細な口喧嘩はしても、無視された事はなく、理由もわからず戸惑っている柳生まで巻き添えと言う、あまりの可愛い態度に、思わず趣旨をバラしそうになった。

しかし反って好都合だ、と大会本番までそのまま過ごしたため長引いた。



レギュラー陣には試合の直前に説明したが、俺達を無視したままだったブン太の耳には当然入っていなかったらしく、試合中、ペテンの為だったとわかった後、ひどく呆れられた。




そして試合後の休日、しばらく一緒にいなかった時間を満たすように何度も何度も抱き合った。


自分が負けた悔しさも、病から復帰した幸村への申し訳なさも、そして三連覇が叶わなかった事も、何もかも拭い去れる気がした。




夜中に目が覚めて、カーテンを開けた。
空を見ると、白銀の月が絶対的な存在感を放ちながら輝いていた。

それでもその傍で、寄り添うように一際輝く一等星が、とても眩しいと思った。
そして、少し羨ましいとも―――


隣を見れば、そんな月と同じような髪色をした仁王の寝顔。
オレは安心して再び眠りについた。










隠れて付き合い始めて、1年半が過ぎようとしていた。

俺達も3年になり、早くも2学期は10月になろうとしていた。



引退した途端遊びたくなるのが、王者と呼ばれたテニス部部員の性だろう。

特に俺達は、三強のような文武両道タイプではない。

だから、今まで以上に2人で過ごせる時間が増えた事を喜んでいたオレ達は、気付かなかったんだ。
考えてもいなかった終わりに。








前篇おわり

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