続・青いリンゴ(幸ブン)

待ちに待った夏休みが始まった。
今年の夏休みは、去年とは違う事が起こる予感がするんだ。






「ブン太!おはよっ」


インターホンを鳴らして、首からスタンプカードを下げてあくびをして出てきた赤髪の少年に声をかけた。


「…はよー幸村くん…」


まだ寝呆けてるような挨拶に、赤ちゃんを抱いた彼のお母さんが苦笑いを浮かべた。


「ほらブン太、幸村くんちゃんと着替えてたじゃない、どうするの?」


「…もうこれでいい」


半袖シャツにハーフパンツではあるものの、どうやら寝間着だったらしい。


呆れたように見送ったお母さんに挨拶をすると、2人で近くの公園へと向かう。



「ブン太、髪ボサボサだよ」


「んー」


歩きながら寝てしまうんじゃないかと思うような返事に笑ってしまう。


「まだ眠いの?」


「んー」


手を引いて歩いていた足を止める。


ちゅ。
鼻にキスを1つ。


「これで目、覚めるでしょう?」


にこりと笑うと目の前の彼は目を丸くして驚いていた。


「うん、起きたみたいだね。早くラジオ体操いこっ」


キョトンするブン太の手を引くと、公園へと急いだ。






スタンプを押してもらって家に帰る途中、俺達の話題はお互いの学校やテニススクールの事ばかり。

ブン太とは、この春に公園で知り合った。
その時はテニスをしてなくて、俺の話を聞いてから始めた。
一緒にお父さんとお母さんにお願いして、誕生日にラケットを買ってもらったと聞いた時は俺も嬉しくなった。



「でさ、オレもラリー続くようになったんだ」


「良かったね」


「うん!早く幸村くんとも試合出来るぐらいうまくなりたいなー」


「あのさ、ブン太はいつまでこっちにいるの?」


学校の違う彼とは手紙や電話でしかやり取りが出来ない。
夏休みの間はずっとこっちにいてくれたらいいのに。


そう思い尋ねたものの、首を傾げたブン太はわかってないのだろう。










家に帰って朝ご飯を食べたら、お互いにラケットを持って再び公園に行く。


「うん、ブン太のフォームきれいだね」


「天才だからオレ」


コートはないので壁打ちや素振りをしているとあっという間に昼になる。



「あー、もうお腹減って死にそう」


座り込んだブン太はなかなか歩きださない。


「帰らないとご飯食べれないよ」


「家に帰る前に死んじゃう〜…」


ブン太は甘えん坊だな。
朝と同じように額にキスすると、そこを押さえて慌て立ち上がった。


「じゃあ帰ろっか」


やっと歩き出したブン太の手を取ると家へと向かう。


「幸村くんー、お昼食べたらまたテニスやるの?」


「ううん、算数のドリルやる」


「ふーん」


「ブン太は宿題持ってきたの?」


「絵日記と国語ドリル」


「算数は?」


「かけ算きらーい」


嫌いな物を後に残すと大変なのに。


「じゃあ、お昼食べたら俺の家で宿題やろう!」


そう誘うとブン太も笑って頷いた。







「ブン太ー?」


麦茶を注いだグラスに口を付ける。
名前を呼んだ相手は開いたドリルの上に頭を伏せ始めていた。


「…幸村くん、オレ昼寝したい」


「ダメだよ、まだ終わってないよ」


「あー…」


しかし、俺の話なんかもう耳に入らないのかブン太はウトウトしている。


「また寝ちゃうの?」


さっきと同じように今度は口に軽く触れる。


ビックリして起きたブン太ににこりと笑う。


「幸村くん、何で朝からオレにちゅーすんの…?」


「だってブン太可愛いんだもん。それにお姫様は王子様のキスで目を覚ますんだよ?」


「…オレ男の子だから王子様だし!」


「じゃあ俺が寝てたらちゅーして起こしてくれる?」


「…できない」


恥ずかしそうに俯いたブン太がやっぱり可愛くて。


「ほら、やっぱり俺が王子様だよ」


「えー…」


「ねえブン太、明日も明後日も、ずーっと!夏休みの間毎日一緒にテニスやろうね」


ブン太も目を輝かせて俺を見る。


「うんっ」


嬉しくて抱きついて頬に口付けた時、ブン太のお腹が鳴った。


笑いながら離れるとブン太も笑っていて。


おやつを食べると明日の予定を決めて過ごす。


そんな夏休みはまだ始まったばかり。








おわり





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