オーツー。
「仁王!!」
家の近くまで来た頃、名前を呼ばれて振り返った俺にタックルする勢いで飛び付いてきた相手を抱き留める。
「おー、ブン太。ただいま」
「帰ってくるなら連絡しろっつったろ?駅まで迎え行ったのに」
「ははっ、すまんのぅ。ビックリさせたくてな」
「残念でしたー、わざわざこの時間に歩いてりゃその頭じゃすぐわかるぜ」
ブン太の言う通り、彼の帰宅時間に遭遇するタイミングで通った事を見透かされていて心地好かった。
身体を離して頭を撫でてやると不満そうな顔をする。
「ったく、いつまでもガキじゃねえっつうの」
「ええやない、俺ブン太の柔らかい髪好きよ」
「っばーか!」
言うと照れ隠しなのか、俺の手からキャリーバッグを取り前を歩きだした。
「しっかし急だったな、お姉さんの結婚式」
「まったくじゃ、いい歳して…まあ今時、出来婚も珍しくないけん仕方ないぜよ」
仁王は大学が夏休みに入るとほぼ同時に、1ヶ月程親父さんの実家である四国へ帰っていた。
と言うのも、年の離れた仁王の姉さんがめでたく結婚する事となり、親戚一同が会するのも久しぶりとあって休みの間引き止められていたからだ。
何でも、お姉さんがどうしてもお腹が目立つ前にウェディングドレスを着たいと言い張った為、突然の日取りとなったらしい。
「まさか、ガキん頃近所に住んでた兄ちゃんとこっちで再会するとは思わんな」
荷物を片付けて、落ち着いた頃、写真を眺める仁王は何だかんだ言いつつ嬉しそうだ。
「姉さん、やっぱ美人だな」
「ブン太、目悪かったっけ?」
「ちげぇし」
仁王がクスクス笑う。
今さら照れる事もないのに何だか気恥ずかしくなって俯いた。
大学に進むと同時に仁王と暮らし始めて、こんなに離れていた事はなかった。
付き合い出した中学3年の頃みたいに、無性に恋しくなって、傍にいたくて、離れて欲しくなくて。
隣に座る仁王の肩に頭を乗せる。
「ん?」
「…淋しかったんだからな…」
絶対に言うつもりはなかったのに、甘えてしまえば簡単に気持ちが零れる。
「ごめんな…俺もブン太と離れた間ブン太シックで淋しかったぜよ」
「うん」
「ブン太が腕の中におらんと寝付きが悪いわ」
「…枕変わると寝れないみたいに言うんじゃねえよ」
「でも本当、ブン太が隣にいるの当たり前みたいで、おらん間ずっとブン太の事考えとった」
頭を撫でてくれる手が大きくて温かくて安心する。
「電話もしたかったんやけど、親戚ばっかおる手前、何か突かれても困るしのぅ」
姉が結婚したのだからいずれは長男も…それはどんな親族だって思う事だろう。
しかし、仁王は男のオレと付き合っていて、同棲までしていて。
確かに何か噂をされては居たたまれない。
「…オレも、仁王の事考えてたよ。暑さにへばってねえかなとか」
「ははっ」
「…それに、」
言葉を止めると顔を覗き込んで来た。
チュッ。
首に腕を回してキスをすれば、仁王がニヤリと笑う。
「…そうだな、俺もブン太不足で眠れん夜ばっか過ごしてたわ」
「仁王くん、サイテー…」
笑い合いながらキスをして、倒されていく身体は柄にもなく緊張していた。
おわり
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