芽生えの季節
「今日はB、D、F組がお花見弁当です。教室以外で食べて構いませんが、今言ったクラス以外の人とはダメですよ」
4時間目を終えるチャイムの後、今まで授業をしていた教師が改めて注意を呼び掛ける。
それを聞くや否やクラスの中は少しざわついたが、みんなソワソワした様に耳を傾けた。。
今年は例年より桜の開花が遅かった。
おかげで、入学式の頃に見頃を迎え、今はちょうど満開を少し過ぎた頃だ。
新しいクラスに馴染むように、と普段は教室内で班毎の昼食だが、毎年この時期は外で桜を見ながらのお花見弁当が許可されるらしい。
「つってもなー…」
入学から1週間足らずで親しい友人などまだいない。
小学校から一緒の親友も今日の対象クラスではない為無理だ。
同じ班のメンバーで食べても良いがそれでは何だか代わり映えがしない気がして、声を掛けずにいると案の定1人になってしまった。
とりあえず外に出てから考えようと弁当を手にして教室を出る事にした。
人見知りなんて柄ではないけれど、何人かがすでに腰を下ろしてる所は気が引けた。
あまり人のいない所を探して慣れない敷地内をウロウロ歩く。
「ん?」
と、桜の花弁に紛れてフワフワ飛ぶ丸い物。
「シャボン玉…?」
気になって飛んでくる先に足が向く。
「…あ、」
「ん?」
数歩進んだ校舎裏。
少し日陰になる花壇の脇にそいつはいた。
「…仁王」
「おー丸井じゃ、どしたん?変な顔して」
「お前のクラス、今日花見弁当じゃないだろぃ。何で外にいんだよ」
「ああ、もう昼なんか。どうりで騒がしくなった気がしたぜよ」
「は?」
仁王とは、つい先日入学前に偶然知り合った。
しかしエイプリルフールを利用してか先輩だとウソを吐かれ、入学してから実はジャッカルと同じクラスに在籍する同学年だと発覚したと言うあまり良い印象がない奴だ。
「俺もそろそろクラス戻るけん。ここ穴場の花見スポット。まだ俺とお前しか知らんよ」
よっこいしょ、なんて聞くからにジジ臭い事を言いながら立ち上がる仁王。
「…じゃーの。また部活で」
ヒラヒラ手を振ると校舎へと向かって行った。
自分も仕方なく弁当を食べようと壁に寄りかかって座り込んだ。
穴場と言っていたのにここからは桜なんかまったく見えず、咲いているのは足元の花壇にピンクのチューリップがあるだけ。
「…穴場ってこれかよ」
仁王の言葉を真に受けるとろくな事がないのは大体わかっていたが、微かに期待した自分が情けない。
だけど。
あながち悪くないなと思う自分もいた。
(…って、あいつ授業サボってたのかよ)
おわり
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