はじめまして、こんにちは。

「母さーん、オレちょっと近く見てくから先帰っていいよ」


入学式を来週に控えた4月の初め。
母親に付いて注文していた制服を取りに来た帰り、そう告げて別れるとこれから通う学校の周辺を散策する事にした。



制服を頼んでいたのは学校最寄り駅の近くの店で、とりあえず通学ルートをイメージしながら学校を目指す。
入試と合格発表と説明会などなど何回か通ってはいるけど、いざ通うとなると周りにも興味が湧く。


「ジャッカルんちもこの辺つってたな」


同じ小学校だった親友は春休みの間に中学校近くへと引っ越しすると言っていた。
入学以降なら落ち着くと聞いたから詳しい住所はまだ知らない。


「ったく、一緒に通学するつもりでいたのに…」


そう思いつつ、海沿いを歩けばしばらくして学校が見えた。









「…やっぱ広いな」


正門をくぐるとテニスコートを目指した。
…ものの、予想以上に敷地が広く、なかなか見つけられない。
春休みとあって活動している部活も少ないのかまったく誰にも遭遇しない。




「つうか門もどっちだっけ…」


さ迷っている内にどこを通ったか曖昧で、急に心細くなった。



「こら!部外者立ち入り禁止!」


「わっ!!」


へたり込んでいると突然怒鳴られて慌てて顔を上げた。


「…お前さんクラスと名前は?」

「えっ、あ、丸井ブン太…です。クラスは来週入学式なんでまだ…」


怒鳴られたからてっきり先生かと思えば、オレとそう変わらないような体格で、口元にホクロのある銀髪の男。
…こんな髪色、今までに田舎のじいちゃんばあちゃんしか見た事ないな。

ようやく道が聞ける事に安堵して、そういえばあの言い回しはもしかして。



「あ、もしかして先輩ですか?オレ今日、制服取り来たから学校見学来たら迷っちゃって」


「なんじゃ、新入生か。俺は2年の仁王雅治」


おずおずしつつ応えると、新入生と知ってか仁王先輩の表情が少し和らいだ。
と、相手の背中に気になる物を見つけた。


「あのっ、仁王先輩はテニス部なんですか?オレ、テニス部に入部希望してて」


「おん、今日は自主練しに来たなり」


「へー、さすが立海テニス部ですね」


「プリッ」


尊敬を素直に口にすると、先輩はよくわからない言葉を言って顔を背けた。


「俺はもう帰るけん、ゆっくり見学して行きんしゃい」


「えっ、いや」


ここではぐれたら本当に帰れなくなってしまう。
そう思ったのにオレの呼び止めに振り向く事なく先輩はさっさと歩き出していた。








「……」


「先輩、さっきもここ通りましたよね…」


「そうじゃったかのぅ」


「通ったじゃん!つうかアンタ本当に先輩?立海生?!」


後ろから勝手に付いて行ってみると仁王先輩は同じような道を行ったり来たりして、時々立ち止まっては何かを考えたりしていた。


この人方向音痴過ぎだろぃ…と心配になって声をかければ、付いてきていた事に驚く事はなくどことなくバツの悪そうな顔をした。



「……バレちゃ仕方ないのぅ。お前さんには真実を教える時が来たようじゃ」


「は?」


突然、何かのマンガみたいなセリフを言いだす相手に別の心配が湧いた。



「…俺もこの4月から転入で立海通うんよ。今日は母親と手続きに来て1人でブラついとったらお前さん見つけてのぅ」

「……つまり敷地内がわからない、と」


「おん」


まさか、と思いつつ確認すると相手は悪怯れもなく頷いた。



本格的に迷った感が増してため息を吐くオレに、仁王先輩は楽しそうに笑うだけ。


「何で楽しそうなんですか…」


「いや、1人だと不安やけど誰かと一緒ならなんとかなりそうな気がせん?」


「……」



この人はとてもマイペースな人らしい。
確かに1人より2人の方が心強いけど、それでも迷ってる者同士に変わりはない。





けどまあ、



「まずはテニスコート探しましょうか、仁王先輩」



ニカッと笑えば仁王先輩も嬉しそうに笑った。
















〜入学式当日〜
「おいブン太!」
「おー、ジャッカル中学でもシクヨロ」
「ああ。…じゃなくて」
「何」
「俺のクラスにスゲー髪した奴がいるんだよ」
「ふーん、キンパとか?」
「いや、なんつーか、今までに日本のじいちゃんでしか見た事ない色なんだ」
「…名前は?」













おわり

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