しょっぱい

※幸→仁→丸





「仁王、好きなんだ」



仁王が校内で誰かに告白をされているのを見かけるのは珍しい事ではなかった。
かと言ってその度に仁王が誰かと付き合う事もなかったけれど。



「だから…付き合ってくれるよね?」



ただ今回はあまりにもよく知るその相手に驚くしか出来なかった。



「…それはイエスorハイしかないんか」


「オッケーって答えもあるけど?」


「適わんのぅ…。俺は…いや、俺も…お前さんが好きじゃ…幸村」





それはバレンタインデーの放課後。
人通りのない階段の踊り場での事だった。












仁王はオレと同じテニス部で、同じクラスで出席番号も近くてよく話す奴だった。

それこそ好みのタイプの話や恋愛相談なんかもした事がある。



そんな時の仁王は、クラスの他の奴らみたいにバカ騒ぎしたりする事はなく、わりと真面目にアドバイスをくれた。



(…まあ、あいつから相談された事はなかったな。幸村くんも普段はオレの事構ってたのに…)


どことなくモヤモヤした気分の自分が嫌で、思わず握り締めた拳が何かを掴んでいた事を思い出させた。


(そういやオレも告白されたんだよな…)




返事は急がないから、と顔を赤らめていた彼女を思い浮べる。
密かに想いを寄せ、実は以前から仁王に相談していた相手だった。

まさか両想いだったとは。
オレはもちろん即答でオーケーした。




にも関わらず何がこんなに引っ掛かるんだ。
仁王はクラスでも部活でも仲が良い奴で、幸村くんもオレの憧れで。
そんな2人が好き合っていて付き合うならそれでいいじゃないか。




告白を聞いてしまった申し訳なさから、2人がいた踊り場を通りたくなくて、オレは廊下を引き返すと階段を下り昇降口に向かった。






「…最初から俺にすれば良かったのに」

「…っ…ふ…」



なのに、どうしてこうも遭遇してしまうんだろう。

入り口に設置された大きな鏡。
下駄箱の陰で仁王が幸村くんに抱き締められている姿が見えた。



「…ブン太の事はすぐ忘れさせてあげるよ」

「っ、そんなん…嫌、じゃ」


慌てて身を潜めた自分が可笑しいけれど、素知らぬ振りをしながら2人の前には行きたくなかった。
何かを話してるようにも聞こえるけど、もの凄く遠くに感じて全然耳に入らない。
ただ2人の様子を窺う事しか出来なかった。





「仁王、俺はブン太にはなれないよ。だからこそ俺は俺なりに仁王の事大切にしたいんだ」

「幸村…」

「お前もバカだよ…ブン太に失恋するのわかってて送り出すなんて」



静かに息を吐く。


「……」

「何度も言うけど、俺は仁王が好きだよ。仁王がブン太の事を好きだったのも知ってる。それでも、側でお前を支えたいんだ」


幸村くんが何を言ったのか、肩に顔を埋めていた仁王が離れようと肩を押した。


「勝手に、人の気持ち過去形にすんな…」


「…じゃあ、無理矢理にでも俺に向いてもらおうかな」



そして離れかけた身体を引き戻すと幸村くんが仁王に―――









2人がキスする瞬間を見たくなくて走り出していた。

バサッと言う紙の音を聞いた気もしたけど立ち止まりたくなかった。



オレの側にいてよ。
オレの事嫌いにならないで。

…幸村くんとキスなんてするなよ。


オレは、仁王が大好きだよ!











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