POCKY GAME
「よっし、オレの勝ち〜」
「もう、勝てるわけないよー」
「ははっブン太何人目だよ?」
教卓を囲んだ中心に丸井がいた。
昼休みにやたら騒々しいな、と思えば何やら賭事のような雰囲気。
何となく様子を見ていると黒板が視界に映った。
…ああ、今日は11月11日、所謂ポッキーの日か。
クラスのムードメーカーである丸井とポッキーゲームをしませんか、そんな内容の遊びらしい。
女子達は照れながらに挑戦しては負け、男子までもがノリで参加している。
そんな挑戦者達には、密かに丸井へ思いを寄せる女子からの痛い視線と男子からは興味津々と言った視線が向けられていた。
しかし丸井本人は気にするでもなく、途中で折られた残りを次々と食していく。
阿呆らしい。
そう思って机に伏せると昼休み終了のチャイムが鳴った。
放課後。
部活に顔を出す事になっていた。
帰りのHRが終わって、丸井と部室へ向かう。
「あ、まだ誰もいねえじゃん」
「珍しくうちが早かったんじゃろ」
「だな」
部室にはまだ誰も来ていなく、丸井と2人きり。
「……」
「…」
別に仲が悪いわけではない。
ただ話題が見当たらない。
「…昼休みは随分盛り上がっとったな」
そういえば、と思い出してあのポッキーゲームの話題を振った。
「えっ?あ、何だよ見てたのか」
「…同じクラスやけんのぅ」
「だよな…」
昼間の盛り上がりとは打って変わって、何故だか丸井は表情を曇らせた。
「…なあ」
「なん?」
「…仁王もオレとポッキーゲームやらね?」
しかし表情が曇ったのは一瞬で、そう言った丸井はいつものように笑っていた。
「…食いモン粗末にしないで普通に食べんしゃい」
「でも1回ぐらい」
「…それとも、そんなに口寂しいんか」
何故だかイライラしていた。
あの昼休みから。
丸井が誰かとキスしてしまう瞬間を目の当たりにするのかと思うと。
丸井が、例えゲームと言えキスをする誰かを望んでいるのかと思うと。
だから、それならいっそのこと…。
「っん、ちょ…にお」
ノリだけで誘った丸井の唇をキスで塞いでやれば驚いたのは最初だけ。
あとは何度啄もうと舌を入れようと抵抗される事はなかった。。
「…っはぁ…」
「……丸井」
「にお……もっかい、キスして…」
顔を離せば恥ずかしそうに俯きながらそんな事を言う丸井の意図がわからない。
「…丸井は、キスが好きなんか…?」
「……オレは…仁王が好き…なんだよ」
小声で気まずそうにそう告げられて、さっきまでイライラしていた気持ちがぱっと晴れていく気がした。
「そか…」
「…わりぃ」
「何で謝るのよ」
「…だって、キモくね?」
「俺も丸井好いとうよ」
「え?」
「昼休みから訳わからんでずっとイライラしてたんやけど」
「…」
「でもさっき丸井にゲームやらんか言われて、そんなに誰かとキスしたいのかと思ったら丸井にキスしてた」
「それって」
「ま、嫉妬になるんかの?」
「…お前鈍いんだよバカ」
「丸井こそ、もし誰かとキスしてたらどうしたんよ」
「速効で口拭ってた」
「どっちがバカなんじゃ、このお調子者」
「……ごめん」
「まあ結果的に俺ら両思いになったけんの」
「うん」
「ポッキーゲームしよか」
「…やだ」
隣で顔を赤くする丸井が可愛い。
これからはそんな小道具がなくても、欲しい時はいくらでもしてあげる。
照れる丸井にもう1度、そう思った瞬間部室の扉が開いた。
おわり
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