紅葉の季節

「あー…こっちも旨そう…」


週末、学校帰りの寄り道。
コンビニに寄ってお菓子やデザートを選ぶ。
オレにとって1週間頑張った自分へご褒美の時間だ。


「ブン太、行くぜよ」


それなのに隣にいる仁王は退屈そうに声をかけてくる。


「あ、待った!オレまだ決まってない!」


「…さっきから随分悩んどるな」


仁王の手元を見れば雑誌を1冊持ってるだけで。


「だってよー、こっちも秋の新作だし、これなんか冬限定だしすげえ気になるじゃん」


「どっちでもいいから早よ帰ろ」


「だーかーらー!新作と季節限定で迷ってんだっつうの」


「両方買えばいいじゃろ」


「いや、そうすると次の楽しみがないから」


「……。しばらく立ち読みしてるなり」


仁王は呆れたようにため息を吐くと再び雑誌コーナーに向かってしまった。




仁王が菓子や甘い物に興味ない事はもちろん知ってる。
だけどオレは、こうして好きな物を目の前にして眺めてるのも楽しいわけだ。


しばらくして、ちらりと雑誌コーナーに視線を向けると仁王と目が合った。


「まだ?」


「もうちょい」


口パクで会話をする。
その答えを見て、立ち読みに飽きていたらしい仁王がやってきた。


「…」


「ブンちゃん決まった?」


「…」


「なあ」


基本的に構って欲しがりな仁王は時々めんどくさい。
今だってオレの頬や腕をつついてる。


「ったく邪魔すんな!もう決めたから!」


「おん」


つつく指を払いながら振り向けば満足気な顔をした。


「あと飲みもん選ぶからもう少し待ってろよ」


「…じゃあ先出てるからゆっくり選びんしゃい」


続けたオレの返事にまたため息を吐くと、仁王はレジへ向かって会計を始めてしまった。


「……」


本当は食べたい物も飲みたい物も決まってる。
だけど部活を引退してから付き合い始めた仁王と、まっすぐどちらかの家に帰って2人で過ごすのがまだとても恥ずかしいのだ。


「…行くか」


店の外を見れば、仁王が背中を丸めて腕を組んで立っているのが見えた。
今日は晴れ予報だが風が冷たい。


『ありがとうございましたー』


「仁王っ」


店員の挨拶を聞き流しながら外に出て、ポケットに手を入れていた仁王に駆け寄った。


「おー、もうええんかの」


「おう」


「ブンちゃん手出して」


駆け寄ったオレに笑うとそう言われたから、わけもわからずに手を差し出す。


「これでええんじゃろ?」


手渡されたのはさっきまで悩んで買わなかった方のお菓子を1つ。


「何で…」


「ん?レジ前にも並んでたから買ってみた。ブン太がどっち買ったかわからんかったけど、迷ってたからダブってもええかなぁって」


「あ、オレも仁王に」


「ん?」


「お前寒がりだから」


仁王がまさか買ってくれていたなんて思わなくて驚いた。
だけどオレから渡された物を受け取った仁王も驚いていて何だか不思議だ。


「とりあえず、これでちょっとは温まるだろぃ」


「おん、ありがとうな」


オレから受け取ったブラックコーヒーをポケットに入れる。


「じゃ、そろそろ帰るぜよ」


「はいはい…」


缶コーヒーの入ってるポケットに手を潜り込ませて。


「こうした方が更にあったまるじゃろ」


隣を歩く仁王の笑顔にやっぱりドキドキする。
だけど好きな物を眺めて、好きな相手と一緒に帰れる週末はオレにとって最高のご褒美。







おわり

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