五輪
蒸し暑さに目を覚まし、枕元の時計を見れば間もなく午前４時になろうとしていた。
この蒸し暑さではしばらくは再び寝付けそうになく、ベッドから出るとテレビを点けた。
寝起きには眩しすぎる画面に目をシパシパさせた後、慌てて音量を下げる。
たまたま点けていた番組は五輪特番でもうじき水泳男子100メートルの決勝が始まろうとしていた。
「…！」
決勝…その言葉に自分達が重なると競技は違うのに落ち着かない。
「…ん…ブン太…？」
「え？あ、悪ぃ、起こした？」
「いや…暑くて目ぇ覚めたらテレビ点いとるから。何見とるん？」
「オリンピック。ちょうど水泳男子の決勝始まるみたいだぜ」
話し掛けられて振り向けば、同じベッドで寝ていた仁王が目を覚ましたらしく、モゾモゾと起き上がった。
「ブンちゃん他の男の裸に興味あるん？まーくん泣くぜよ…」
「ちげぇよバカ！あ、始まった」
仁王の冗談を一蹴すると画面に向き直る。
「…速いのぅ」
「だな。北島なら今回もメダル取れるよな…」
「おん」
仁王と日本選手の追い上げを見つめていた。
「行け、北島！あとちょっと！」
「よし行け！ここからじゃ！」
しかしメダル圏内に、オレ達の思う選手は届かなかった。
「……」
「…悔しいのぅ」
「オレ達は、絶対全国３連覇しような…！」
「おん」
先日終えたばかりの、関東大会決勝での敗戦が悔しい。
絶対に勝つと自負し、負ける事はないと期待されていた我ら立海大のまさかの敗戦。
仁王も同じなのだ。
普段は表情や態度に出ないけれど、こいつも同じようにあの敗北を噛み締めているんだ、そう思うと全国大会への意欲がますます湧いた。
「ブン太…」
「な、んだよ…」
しかし当の仁王は全く違ったようで。
フローリングに座っていたオレは後ろから抱き締められた。
嫌な予感がする。
「…俺とチョー気持ち良い事しよ？」
うなじにキスをされて肩が震える。
「…もうお前、何も言えねぇわ…」
蒸し暑さの中、勝利を見据えて口付けた。
おわり
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