GUMBLE

クチャクチャクチャクチャ


隣に座りウォークマンをいじる丸井が、いつものようにガムを噛んでる音。
時折ぷうっと膨らませては、パンと割れて再びクチャクチャ。


普段自分が、あまり口にしないから何となくその様子をジッと眺めてみる事にした。


「…何だよ?」


しばらくして俺の視線に気付いた丸井がこちらを向いた。


「いや、顎疲れんのかなぁって」


「は?」


イヤホンを片耳は外したものの、俺の疑問に対してなのか強い口調で聞き返された。


「ガム、ずっとクチャクチャ噛んでたらこことか痛くならんの?」


小さい頃親が酒のツマミに食べていたスルメを思い出す。
あれがなかなか食べ終えれなくて、しかもずっと噛んでいたから顎や耳のあたりが痛くなった。


「痛くなる前に味なくなるって」


「そか」


「おう」


丸井は再びイヤホンを付けるとクチャクチャとガムを噛んだり膨らませたり。
小さい口がよく動く。


特にする事もない俺は机に伏せる事にした。


別に急ぎの予定があるわけではないし。

ホームルームの後、クラスメート何人かでダベっていたはずが、気付けば丸井と2人になっていた。
部活仲間、先に帰る気にもなれず…と言うより、俺は丸井の事が好きだった。
だから偶然とは言え、一緒にいられる事が嬉しく先に帰る気には到底ならなかった。


「仁王、」


「ん?」


不意に名前を呼ばれて、顔を上げる前に片耳に何かをはめられた。


「これ聞いて」


何かと思い、自分でイヤホンをはめ直す。
ドラムとギターで始まった爽やかな曲が聞こえる。


『♪〜君が好き』


サビまで来た時に聞こえた言葉。
それは、今イヤホンから流れたのと同じ言葉ではあったけれど、ドキッとして丸井を見れば、真剣な瞳が俺を見ていた。


「オレ、仁王が好きだ」


「丸井…」


「お前もオレの事好きなんだろ?」


自信満々にそう言われてしまうと詐欺師としてはあまりに情けない。


「さぁ、どうかの…」


「ふーん、まあいいか…ガムも味なくなったし、じゃあオレ先帰るわ」


「え、ちょっ丸井」


俺の返答にガムを1回膨らませた後、告白をしてきたくせに何事もなく教習を出ようとする。


「…なあんてな」


しかし慌てて立ち上がった俺に振り返ると満足気に笑う。


「お前、詐欺師失格だろぃ」


「うっさいの、黙りんしゃい」


クスクス笑う丸井を抱き締めると目を閉じた。


「俺も丸井が好き」


「知ってた」


目を見つめ合わせると再びキスをする。
舌の上を転がる味のなくなったガムからは、甘い甘い香りがするような気がした。







おわり

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