幼稚な嘘
「は?丸井は特に嫌いじゃ」
「えー、何でっすかー」
「何でって言われても嫌いなもんは嫌い」
「ちぇっ、せっかく今度ジャッカル先輩と丸井先輩と遊び行くから仁王先輩も誘ったのに…」
「すまんの…まあ人数合わせなら付き合っちゃるよ」
「マジっすかー、良かった!」
部室の前に着いた時に聞こえた2人の会話。
(…仁王は、オレの事嫌いだったのか)
普段、部活でしか接点はないけれど、それでも嫌われてるとは思った事もなかった。
それにしてもあんなにはっきりと…せめて苦手ぐらいにしておいてほしいもので。
「ブン太?中入んねえのかよ?」
「えっ?おー、ジャッカル〜!」
「相変わらず変なテンションだな…」
「うっせーよハゲ」
つい落ち込んでいたところへ話し掛けてきた相方に戯れながら部室に入れば、さっきの会話の主―仁王と赤也―がこちらに視線を向けた。
「先輩達おはようございます!仁王先輩も今度の遊園地オッケーらしいっス!」
「マジかよー。仁王来てくれるなら助かるぜ。俺だけじゃ2人も見きれないからよ」
「ジャッカルは大変やね」
「うっわ、仁王先輩ちょー他人事!」
赤也が突っ込めば「当たり前じゃ」と澄ました顔で笑っていた。
「4人で行くなら、たまには丸井と組もうかの」
「はっ?」
「ん?やっぱりいつもと同じ相方の方がいいか?」
「え、いや…そうじゃない、けど」
「じゃあ、よろしくな丸井」
「…おう」
ついさっき嫌いだと語っていた相手と遊園地を回るなんて…。
何考えてるのかマジでわからない。
それにしても。
「…嫌いなら構わないでいいっつうの…」
「何か言ったか?」
「いや…」
ぶっちゃけた話、オレは仁王が好きだ。
それなのに、その相手に嫌われてると知ってしまっては素直に遊園地なんか楽しめるはずがないのだ。
「丸井?」
「ん?」
「ジャッカル達がおらん…」
「はぁ?」
遊園地当日。
一通り遊び回って昼も食べて、さあ次のアトラクションへ、と言う時に聞こえた仁王の声。
「え、マジで?」
「携帯も繋がらん」
「えー…どこ行ったんだよ。…とりあえず呼び出しかけてもらって待つしかねえか」
後ろを付いてきていたはずの2人が見当たらなくなり、今来た道や近くを見渡しても姿がない。
仕方なく、係員に呼び出しを頼むとオレ達は近くのベンチに腰掛けた。
「……」
「……」
「はぁ…」
「丸井は、好きな奴おるの?」
「は?何突然…」
「いや、こうゆうとこでデートとかするんかなぁって」
「…お前はし慣れてそうだよな」
「そんな事ないぜよ」
「そうか?なんつうか、好きでもないやつにも期待させてそうじゃん」
そうなのだ。
オレの事を嫌いだと言っていたはずなのに、やたら優しく…つうか実は柳生じゃないかってぐらい紳士的に振る舞われて、正直どう接していいかわからなくてドキドキしっ放しだ。
「心外じゃ〜…好きでもない相手とはまず出かけたりしないぜよ」
「……だけど嫌いな奴とは遊ぶんだな」
「え?」
「だって…お前オレの事嫌いなんだろっ」
嫌われてると知っていて優しくされるのは悲しかった。
悲しいけど楽しいし嬉しい反面、まるでデート中のような雰囲気にはもう堪えられなくて発した言葉に驚いたのは仁王の方。
「え、俺丸井の事好きよ?」
目を丸くさせてそんな事を言う。
本当に何考えてんのかわかんねえ。
「ウソ吐くなよ、だってこの前…」
「俺、丸井に嫌いなんて言った覚えないんやけど」
「そりゃオレも直接言われてねえけど…あ!あの時!赤也が部室でお前に今日の事話した時…」
あの時を思い出すと悲しくなる。
だけど、隣に座る仁王からは笑い声が聞こえた。
「あー…すまん、聞かれてたんか。でももひとつ思い出してくれんかの」
「何だよ…」
「それは、いつだったん?」
「だから、部活始まる前で」
「何日の」
「1週間前…?だから1日?」
「つまり?」
「えー…4月1日…だからエイプリルフールって事かよ?」
「正解☆」と笑った仁王は満足気だけど、オレはさっぱり腑に落ちない。
「意味わかんねぇ…」
「いや、あん時な、」
仁王の説明によれば、毎年こいつのウソに引っ掛かっている赤也が、かけられる前に済ませようと試みたらしい。
「仁王先輩!今日吐いていいウソは1こだけなんですって」
「ほー。んで?」
「だから、俺が今から聞く質問にはウソ1つだけ吐いていいっすよ」
「騙される予防策か」
「まあそんなとこっス」
「で、何が聞きたいんじゃ」
「そっすねぇ…レギュラーの事どう思ってんのかなぁ、とか」
「何じゃ、そんな事か」
「だって先輩、普段誰と仲良いかわかんないんですもん」
で、オレの時にウソを言ったタイミングに丁度遭遇しちまったって事らしい。
「て事は?」
「俺、丸井の事は特に好いとるぜよ?」
「…マジ?」
「おん」
「…オ「先輩達いたー!!」
「オレも」と告げようとした瞬間走り寄ってきたワカメとスキンヘッド。
そういえばこいら、はぐれてたんだっけ。
「どこ行ってたんだよ!」
「赤也が携帯落としてたんだよ…慌てて探しに戻ったらお前ら見えなくなってたし焦ったぜ」
「見つかったんか?」
「ありましたっ!さっき昼食った時にポケットから出てたみたいで…」
「ったく!心配したんだからなー!」
「すまんせん…。あ!せっかくなんで写真撮ってもらいましょうよ!」
オレ達の小言から逃げるためか、赤也はそう提案すると近くにいた係員に駆け寄って行った。
「逃げ足早いのぅ」
「まったくだぜ」
「…さっき2人が来る前、何か言い掛けとらんかった?」
さっき言うタイミングを逃した気持ちは。
カメラを構えた係員の声。
慌ててポーズを決めようとこいつの腕を取ったオレ。
バランスを崩したと見せ掛けて、一瞬、頬に軽く触れたキスにこめてやる。
「仁王もブン太も、何か顔赤くないか?」
「本当だー、大丈夫っスか?」
「…ちょっと疲れただけだって」
「ぴよっ…」
おわり
珍しくジャッカル登場。
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