美容師と客

過去拍手パラレルの続編です。











「後ろはこんな感じで」


「あ、はーい。ねえマサくん、クリスマス私とデートしよ?」

「ムリムリ仕事。それに彼氏と会うから髪整えたくせによう言うの」

「あはは、ごめん。それにしてもマサくんの彼女も大変ね」

「…まあ」



仁王の誕生日にプレゼントを、と店を訪ねた。



移転して来て以来、仁王家の運営する美容室は順調なようで、すっかり街で人気の店となっていた。


オレ自身、今日はカットの予定はなかったから、店入口ではなく隣接する自宅玄関を訪れ、昼御飯の支度をしていたお姉さんと話ながら待たせてもらっていた。




「ブン太くん、ありがとうな」

「いえ」

「マサああ見えて人見知りなとこあるんよ、越してきた時心配だったんよね」

「え、」

「だけどブン太くんかここら辺案内してくれたり、こうして遊びに来てくれるから、あの子こっち越してきて良かったって楽しそうなんよ」

「そんな、オレは全然、何もしてないし…」


お姉さんの言葉に驚いていた時に聞こえてきた、仁王達のお店側の声。



(…彼女、いたんだ)


その事実にショックを受ける自分に驚く。


(オレ、ただの友達なのにこんな、誕生日にプレゼントとか何考えてたんだろう…)

「すみません、忙しそうだからやっぱ帰ります…」

「え、ブン太くん?」



お姉さんの呼び止める声を振り払うと、オレは急いで仁王家を後にした。







オレ女々しすぎる…、つうか何のつもりでこんな…。

彼女の存在が発覚して、何気なかった自分の行動が居たたまれなくなってしまった。

家に帰ると部屋に引きこもり、用意して行ったプレゼントの包装を破る。

中身は、オレなりに考えて選んだマグカップ。
前に冬生まれだけど寒がりだって話してたから。
だけどオシャレな上に、自宅兼仕事場の仁王に身に付ける物を渡しても…と悩んだ末の選択だった。






「姉ちゃん昼飯は?」

「出来とるから食べて」

「んー」

仕事を終えたのに労いもない姉の態度に切なくなりながらも椅子に座る。


「そういえばさっきまでブン太くん来てたんよ」

「え?」

すっかり冷めた昼ご飯に箸を付けたところで、姉が思いだしたように告げた。

「ほら、あんた今日誕生日なんね。忘れてたけど」

昔の彼氏の誕生日は今も覚えているのにか…しかし、そんな事を言っては殴られる為、今は言わない事にする。

「…それで?」

向かいに座った姉に視線を合わせる。

「プレゼント持ってきてくれたみたいだけど、忙しそうだからってさっき帰っちゃった」

「…わかった」

「それよか、」

姉がリモコンでテレビの電源を消す。

「何じゃい」

「あんた今彼女なんておったっけ?」

「……いや」

「だよねえ。こっち来てからマサの口からブン太くんの話しか聞かんもの」


再び向き直った姉の顔は楽しそうで、とても居心地が悪い。

「……そんなん…」

「ブン太くんもまさか彼女がいたなんてってショック受けたんじゃなか?」

「………」

「変な見栄張らなくていいんに…」

「見栄なんか張っとらんし」

「なんてゆうかさ、別に男だからとかそういうん気にしなくていいと思う。好きって気持ちを自分が否定するのって良くないと思うし」

「別にそんなんじゃ」

「…あたしの話聞いてた?」

誰がこいつをキレイなお姉さんと呼んだんだと疑いたくなる形相で睨まれ、慌てて首を振る。
もちろん縦に。

「ブン太くんも自分の感情に戸惑ってるだけ思うよ」

「………」

「クリスマスは休ませてあげるから、今日はしっかり働きなさいよ!」


そう言うと、食べ終えた食器を流しへと片し始めた。






「……」

「ブン太?」

いよいよ週末にはクリスマスとなった街中はイルミネーションが輝いている。
この景色を眺めながら仁王も彼女と過ごすのかと思うと視界がぼやけた。

「……」

「ブン太!」

「えっ?…あ、」

呼び掛けられていた事にも気付かなくて、肩を掴まれ振り向けば意中の人物が立っていた。


「あんまりぼーっとしとるとぶつかるぜよ」

「…ごめん」

確かに周りは帰宅する人達で混雑していた。
謝りながらも仁王の顔を見る事も出来なくて俯いてしまう。
俯いた視線の先、仁王は買い物にでも行って来たのか、手にはプレゼントらしき袋が握られていた。

「ブン太1人だと危なっかしいし、送ってく」

「…、いいからそんなん…」

あれは彼女にクリスマスの贈り物なのだろう。

「ええじゃろ、折角会ったんやし。一緒帰ろ」

そう言って仁王は空いている手を差し出してきた。
こいつは何を考えているのだろう。
彼女にも、こんなふうに接するのかと思うと治まっていた涙腺が弛んでしまった。


「っうー…、……」

「ブン太!?どしたんよ急に」

突然泣き出したオレに驚きつつも、仁王は躊躇いもせずに抱き締めた。

「…ごめ、っいいから、先帰れよ…」

「そんな事出来んよ。…ブン太に聞きたい事もあるし」

仁王の腕を解きながら言ったのに、宥めるように頭を撫でられて安心してしまう自分に悲しくなる。

「とりあえず俺んち行こ」


オレが頷いたのを見ると、仁王はまた迷いもなく手を取ると先に歩きだした。








「お帰り」

「…姉ちゃん、菓子とかいらんから」

「……何、もうそうゆう…?」

「…違うわアホ!」

仁王の家ではお姉さんが出迎えてくれた。

「ブン太くんいらっしゃい。この前はごめんの」

「あ、いえ。こんばんは…」

「ブン太くんも自分の気持ち否定しちゃダメよ?」

「は?」

「ブン太、こっち」

お姉さんの言葉の意味がよくわからないでいると仁王に呼ばれた。





仁王の部屋に入るのは初めてだった。
街を案内しながら外に出かける事の方が多くて、それに客としても顔馴染みだから、店に行ったり、お姉さんやおばさんともお茶したりと、すっかり馴染んでいた。


だから、仁王に彼女がいたのが信じられなくて。
そんな話をしてくれない仁王にもムカついて、誕生日以降に届いていた仁王からのメールや電話には一切応えていなかった。


「で、何でメールも電話も返してくれの?」

部屋に入るなりローテーブルを挟んで座らされ、いかにも問い詰められてますみたいな空気になった。

「…ごめん、師走って忙しいじゃん色々…」

相変わらず顔を見るのが気まずくて視線は逸らしたまま。

「4日に…誕生日に来てくれたって聞いたんやけど、」

仁王はそんなオレに呆れながら続ける。

「あー、プレゼントな…うん」

「わざわざ用意してくれたん?」

プレゼントと言う言葉に仁王の言葉が柔らかくなった気がした。

「…違ぇし」

「そか。…俺な、ブン太に言いたい事あるんよ」

「………何改まって」

いよいよ彼女を紹介するつもりなのかもしれない。

「俺実は好きな子がおるんよ」

「……うん」

ほら来た。

「でな、いつもそいつから色々貰ってばっかやし、と思ってプレゼント見てきたんじゃ」

「……ふーん」

そんな事をオレに言われても。

「だから、ブン太。これ、受け取ってくんしゃい」

「……え?」

言って仁王が差し出したのはさっき街中で会った時に持っていた袋だった。

「え、これ…彼女…に」

「……違う。やっと、顔上げたの…」

「あ…」

「…俺な、1つブン太に謝らんといけんのよ」

「何」

「…俺、今彼女なんかおらんし、ブン太の事以外好きになれんよ」

「はぁ?」

「…だから!俺はブン太を好いとうよ」

「…え?」

「…人の告白を何度も聞き返されるとへこむんやけど」

「あ、ごめん。え、好きってオレを?」

「…そう言うとるじゃろ?」

「ウソだー!」

「いや本当に。…ブン太は、俺ん事引いた?」

「いや、えっと…なんつうかビックリした…」

「…すまんの」

「イヤとか、引いたとかじゃなく、て…オレでいいのかなって…」

「ブン太がええの」

「…本当に?」

「ホントに」

「…何か、スゲー嬉しい…」

「おん、俺も」

「これ、開けていい?」

驚きで忘れていたプレゼントを思い出して開けてみる。

「あっ、」

「ん?」

包みを開くと出てきたのは

「マグカップ…」

「ブン太、すっかりうちの家族と馴染んどるからの。だから俺んちで使うのにブン太用カップ」

その言葉にまた涙が溢れる。

「めちゃくちゃ嬉しい…っ」

「泣かんの」

仁王に抱き締められて更に涙腺が緩んだ。

「泣いてねえし…っ」

「うん。クリスマスは一緒に過ごそうな」

「おぅ。…あ、でもお前仕事じゃ」

「姉貴が休みくれたなり」

「そっか。…ありがとな、オレ、も仁王の事が好き…かも」

「…かも?」

抱き締められて頭を撫でられていた手が止まる。


「…かもって何よ…ブン太は俺に、」

顎を掴まれると視線が合わされて。

「……こうされたいとか思っとらんの?」

目を閉じる間もなくキスをされた。

「…げっ…」

「あ…」

「何覗いとるんじゃクソばばあッ!」

そして驚いてるオレを差し置いて聞こえる仁王の怒鳴り声。

「覗いてないわよ、」

と、ドアを開けられて入ってきたお姉さん。

「目ぇ逸らすなやボケ」

「ごめんねブン太くん…こいつ手早くて」

「こら、まず覗いてた事謝れや」

「可愛いーブン太くん。顔真っ赤」

「えっ!?」

お姉さんに言われて意識すれば顔が熱い。

「ったく、おかん呼んどるから早よ店戻りんしゃい」

「もー、心配してたんじゃないの」

「ハイハイ」

言いながら、からかいたいだけの姉を部屋から追い出すと、静かになった部屋でブン太の隣に腰を下ろす。

「……バカ、お前マジで手早過ぎんじゃねえの…」

「いや…あー…スマン…」

「…けど、嬉しかった」

「え?」

「やっぱりオレも、お前の事好きなんだよ」

ブン太の言葉に驚いてると手が触れて、今度はブン太からキスをされた。

「自分から仕掛けて照れんでよ…」

「だって、マジで嬉しい…」

「俺も」

そう言って髪を梳いてくる仁王の指が優しくて。
肩に抱き寄せられれば初めてカットされた時と同じ甘い香りに包まれてその心地好さに安らいだ気がした。





「メリークリスマス、ブン太!」
「おうメリクリ。そうだ、仁王。これ…」
「何?」
「誕生日の…持ち帰っちゃったから」
「ああ。…ん?これ…」
「うん、色違いでビビった」
「ハハ、以心伝心やね」
「ばーか…」
「それじゃクリスマスプレゼントには丸井ブン太くんいただきますっ!」
「はあ?…っん…ちょ、お前…マジで手え早過ぎだ、ろ…っ」
「ぴよっ」







おわり

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