1/365の4日間〜2012仁王誕生日〜
12月2日金曜日。
仁王が風邪で学校を休んだ。
期末テスト最終日。
2つ前の空席を眺めてため息が出た。
何もこんな時に風邪をひかなくても…。
あいつの健康管理はまさにたるんでると思う。
明後日の日曜日は誕生日だというのに。
そして、この日ついに告白をしようと考えていたオレには、とてつもない衝撃だった。
みんなで部活の練習を見に行く予定だから部室で軽くお祝いして、帰りにプレゼントを渡すからと半ば無理矢理でも一緒に下校、そして何となくいい雰囲気になったところで「好きだ」と告白!
これがオレの計画。
まさに天才的な告白計画!とか思ってたのに。
風邪をひいたんじゃ部活に来るかもわからない。
計画が台無しになってしまう。
「丸井、仁王に月曜日の連絡頼むよー」
「は?」
自分の名前が聞こえたので伏せていた顔を上げる。
「今日受けてない分はその教科中に実施するから」
「あ、はーい…」
帰りのホームルーム中、担任に告げられた一言。
同じクラス万歳!
同じ部活万歳!
これは来るべきチャンス到来じゃないだろうか。
12月3日土曜日。
今日は学校も休みだから、仁王へのプレゼントを選びに来た。
「何かあった?」
「…んー…」
ちなみに幸村くんと。
先月オレんちの最寄り駅近くにショッピングセンターが出来て、そこに行きたいからと近所に住むオレが誘われた。
「これとかいいんじゃない?似合うと思うよ」
そう言って幸村くんが持ってきたのは猫耳が付いた帽子。
「…誰が?」
「ブン太に決まってるだろ?」
ふふ、と笑う幸村くんを睨めばまた楽しそうに笑った。
「……」
「冗談だってば!まあ、仁王も似合いそうだけど」
「え!?」
一緒に出かけてはいるけど、仁王を好きな事や告白計画の事は誰にも話した事はない。
それなのに、
「ブン太は仁王大好きだよね」
優しく言われて顔が熱くなった。
「なっ、え?ちが、ぅ…」
「そんなに慌てなくても。明日プレゼント渡したいんでしょ?」
「……うん」
あやすように頭をポンポンとされて素直に頷いてしまった。
…まあ否定や拒否した時点で意味がない事はわかってる。
「よし!じゃあオレも一緒に見立ててあげる」
そう言うと、とても楽しそうに店内を連れ回された。
「…どう、すっかな、」
携帯を握ったまま考え込んでいる。
あの後、幸村くんは思ってたよりも真剣にプレゼントを見立ててくれた。
『明日出てこれそうかどうかブン太から連絡して。ちなみに部長命令だから』
そう言われて幸村くんと別れたけど、よく考えれば今の部長は赤也だ。
プレゼントは決まったけど、明日もし仁王が休んだならオレの決意が揺らいでしまう。
「…連絡…するか」
しかし電話かメールか。
「…もしもし」
携帯が静かに着信を知らせた。
部活連絡で幸村だろうか。
体調が悪いのだからメールにするような気遣いをしてほしい。
バイブが鳴り続くので、手探りで取ると仕方なく通話を押す。
「…仁王?」
「!?えっ、丸井…?」
幸村なら適当に流そうと思っていたため、相手を確認しなかった。
「そうだよっ!つうか出る時気付くだろ」
「あー、すまん…半分寝とった…」
「…ああ、悪い…風邪、どう?」
キャンキャン喋ったかと思えば、申し訳なさそうに静かに問われた。
「んー…まだ…っホ、ゴホ…」
「仁王?大丈夫かよ?」
「…ッ、はあ…すまんの。やっぱ、明日の部活は行くのやめるわ」
「…わかった」
明日みんなで祝ってくれると言うのは前々から聞いていた。
だが、こんな体調で出てもみんなに迷惑をかけるだけだ。
「じゃあ、またな。早く治してこいよ?」
「ん、ありがとな」
丸井の、淋しそうな声が耳から離れない。
「……」
明日しかないのに。
クリスマスなんてイベントでは、女々し過ぎて告白なんて出来る勇気がない。
だから、誕生日に。
そう思っていた。
見舞いながら家に行く事も考えた。
だけどあんなに体調が悪そうなら、そんな事をしたら迷惑になってしまう。
「あ…」
ふと机に目を向けて、担任からの伝言を伝え忘れた事に気が付いた。
また電話するのも気が引ける。
「………よし、」
12月4日日曜日。
「…今度は誰じゃあ…」
枕元に置いたままだった携帯を開く。
暗闇の中、寝呆け眼にはこの小さな照明すら眩しい。
「…メール?」
Date:2011/12/4 00:00
From:丸井
Sub :誕生日おめでとう
――――――――――――
さっきはごめんな。
月曜の連絡言い忘れたからメールする。
テストは受けてない授業中に再試っつってた。
月曜の。
@にほんしの資料忘れんな
Aおんがく
Bうんどうぐつ忘れんな
Cすうがく
Dき゛じゅつ
だ
返事は、いらない。
―END―
「…ん」
返信不要に納得しつつ、明日の連絡なら昼間でも良かったのに…と思いながらメールを読み返す。
「……ん?」
この平仮名で書かれた時間割は何なのだろう。
にほんしの資料は社会。
音楽。
うんどうぐつ…は体育はグラウンドか、この寒い時期に酷な授業するのぅ。
数学。
き゛じゅつ。
…普段の丸井らしからぬ文面に混乱する。
いつもはこんな平仮名を多用するようなメールはまず来ない。
そして、き゛の下にあるだの一文字。
に
お
う
す
き
だ
「!?」
こう読んでしまうのは、自分が丸井に好意を抱いているからなのか、それとも…。
告げてしまった。
気付くかはわからない。
でもあれが今のオレには精一杯だった。
「!!」
今日は部活に行くからもう寝なくては起きれない。
なのに眠れない。
そう思っていたら携帯が鳴った。
「……はい」
「丸井?俺やけど…寝てた?」
「いや…」
電話は仁王からで。
「さっきの…メールありがとうな」
「ああ」
「……そんでな、」
「…うん」
「返事、なんやけど」
「……いらないって書いたじゃん、お前風邪ひいてんだし」
気付いたのか?
「…だけどどうしても聞いてほしいんよ………俺も、丸井の事、好いとうよ」
「……っ!何の、返事だよ…」
素直になれないオレはバカだと思う。
「俺の事、好きなんやろ?」
「…ちが」
「さっき電話で、今日部活行かない言うた後の丸井の淋しそうな声が離れんのよ。丸井に会いたいくなったんよ」
「……」
「俺も、丸井が好きじゃ」
「っ!…バカじゃねえの…誕生日に風邪ひきやがって…」
「そうやね」
「…オレも、お前に会いたい…」
「今日部活行くけんな」
「風邪は…?」
「熱はないから平気じゃ」
「わかった」
「帰りは一緒に帰ろうな」
「おう…電話、ありがとな」
「丸井も、メールありがとうな」
「うん…じゃあ、明日、な」
そう言って名残惜しくも通話を切ろうとすれば静かな笑い声が聞こえる。
「もう今日」
「うっせ…!」
「また、後でな」
「うん、…おやすみ」
「丸井風邪ひかんようにな」
「お前はぶり返すんじゃねえよ」
「ん、おやすみ」
そうして電話を切った後、顔が熱くなってたのは互いに本人達しか知らない。
「仁王おはよ。出てくるなら連絡してよ。お祝い準備してないよ。…ところでブン太は?」
「え、丸井来とらんの?」
「連絡もないし」
「お゛はよ゛ー…っくしゅん!あ゛ー…」
「え、ブン太が風邪?」
「は?え、俺移しとらんし」
じとーっと睨む幸村がとても怖いです。
「大丈夫か、丸井」
「んー…仁王に会いたいから来たんだけど、ちょっとしんどい…」
そう言って目を伏せる丸井はとても可愛い。
「幸村、俺丸井送ってくるわ」
「え、誕生日の主役不在?」
「準備しとらんなら平気やろ」
「…あくまでも送り届けるだけだからね?」
「…はい」
「俺移しとらんよな?」
「アホ、電話やメールで移るわけねえだ、ろ…ッこほ、ごほ…」
ふらつく丸井を支える為に手を握れば、熱があるのか熱い程で。
「あー、わりぃ…」
「いや…寧ろ嬉しい、って言ったら丸井は怒る?」
「はあ?」
「誕生日に、好きな相手とこんなふうに手繋いで帰れるなんて俺幸せ」
「…バカ」
「仁王。プレゼントあるから待ってて」
そう言って玄関を開けた丸井を「やだお兄ちゃん、やっぱり早退したの?」なんて母親の声が迎えた。
「…おはようございます」
「あら仁王くん、久しぶりねー。送ってくれたの?仁王くんは部活戻るのかしら?」
「いえ、俺も今日は」
「じゃあ良かったら上がって行きなさいよ!お兄ちゃんがケーキ焼いたのよ」
「え」
「しかも夜中に作り始めたみたいでねえ。そのままキッチンで寝こけて風邪ひいたみたい。本当食欲だけはある子だから」
「悪かったですねー食欲しかなくて!…母さん達まだ出掛けないの」
そんなやりとりが聞こえていたらしい丸井が不貞腐れ気味に口を挟んだ。
「あら、もうそんな時間?仁王くんにお茶淹れてあげて。アンタも薬飲みなさいよ」
「はいはい…」
そうして母親を見送ると丸井に室内に案内された。
「今日ちび達が地区のクリスマス会なんだと」
「ああ、で、おばさんもか」
「今年役員だからさ」
「そか」
「………えっと、ケーキ…焼いたんだけど、食う?」
「それがプレゼント?」
「…違うけど」
「ケーキ、食べたい」
「これ、誕生日プレゼント」
ケーキを食べ終えたところで、包みを渡された。
受け取って開けてみると…。
「マフラー?」
「考え過ぎて決まらなかったんだけど、お前風邪ひいたし、暖まるのがいいんじゃないかって幸村くんが言ってて」
「幸村…」
「あ!お前部活戻らなくていいのかよ?」
「昨日まで寝こんどったし平気だっちゃ」
「そっか」
「てゆうか、誕生日だし丸井と一緒におりたい」
「…風邪移るってば」
「もうひいてるから移らんって」
「治せっつったじゃん」
「このマフラーあるから平気」
そう言って隣に座る丸井の首に回すと顔を赤くした。
「…ばか」
「バカは風邪ひかんのよ、ブン太」
額を合わせて囁いて。
「…っ急に名前呼ぶな!…つーかオレは天才だから」
自分にもマフラーを回せば、更に近付いたこの距離に戸惑いながらも俺の腕を掴むブン太が愛しい。
「ブン太。目、閉じて?」
強請る俺は意地が悪いと思う。
「……誕生日、おめでと。オレ仁王が好きだ」
顔が離れた後抱きつかれながら改めて告げられれば心も暖かくなった気がした。
12月5日月曜日。
ブン太が風邪で学校を休むらしい。
仁王は真新しいマフラーを巻いてムカつくような爽やかさで挨拶してきた。
「仁王知ってる?マフラーをプレゼントされる意味」
「唐突に何言いよるん幸村」
「“貴方に首ったけ”って事だよ」
マフラーを引けば若干苦しいのか顔をしかめたけど、俺の言葉に珍しく顔を赤くした仁王をからかうと先に下駄箱へと向かった。
おわり
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