I am thinking you,everyday
※長いです
「〜っ!!仁王なんか知らねえ、勝手にしろよ!」
「俺ももうブン太なんか世話やけんな!」
どうも、幸村です。
ある朝寝坊して慌てて部活に向うと、部室に着くなり誰かの言い争う声が聞こえた。
「…部長、どしたんスか、あの2人…」
「おはよ赤也。…いや、俺も今来たところだから状況もわからないんだけど…」
珍しく早く来れていたらしい赤也が、今だ制服の俺に話し掛けてきたけれど、後から来た俺がわかるはずがない。
「ジャッカル、ラリーするぞ!」
「柳生、はよ着替えんしゃい、基礎練始めるぜよ」
しかし他の部員も含め訳がわからない俺達を余所に、言い争っていた当の本人達――仁王とブン太――は、パートナーと共に早々と練習へと向かった。
「…しばらく様子見ようかな」
「…了解っス」
面倒くさいと言う気持ちが表れていたのか、俺の返答に苦笑気味に答えると、「早くコート来てくださいよ」なんて言いながら赤也もラケットを持つと部室を後にした。
どうも、赤也っス!
朝から丸井先輩と仁王先輩が急に喧嘩始めて、放課後の部活もすっげー重苦しかったんですけど!
ここはカワイイ後輩の俺が仲直りさせるべきかなーと。
あ、丸井先輩だ!
「丸井せんぱーい」
「おー赤也、お疲れ」
ベンチに座り汗を拭う丸井先輩はいつも通りに見えるんスけどね。
「お疲れっス。…あのー、仁王先輩とー、な」
「うっせえ!!」
「!?…いってぇーっ!何すか、もうっ…!」
「次その名前をオレの前で言ったら殴るかんな!!」
「今も殴った…」
「んだよ!?」
「いや…」
「ったく、子供はさっさと帰りやがれ」
痛いっ…!!
仁王先輩の名前出した途端、すげえ睨まれてチョップされた…。
つうか1こしか違わねえのにガキとか!
でも今言い返したらまた殴られそう。
「わかってますぅ、…お疲れっした」
今日は大人しく退いてやるぜ!
殴られたとこ痛いし…。
「仁王、が悪い…んじゃん」
赤也には悪いけど、オレは、悪く…ない…。
嵐のような後輩が出て行った後、1人になった部室で呟いた。
―――――
「おはよう仁王」
「…おー幸村か、おはようさん」
「うわっ、何か嫌そうなテンションしてるなぁ」
「…わかってるなら放っておいて」
登校中、前を歩く銀髪を見つけた。
普段なら挨拶だけ済ませて先に行くんだけど、やっぱり昨日の事が気にかかる。
「そうはいかないから声かけてるんだろ」
「………」
「ブン太と、何があったの?」
「……別に」
「ふーん…。じゃあ俺がブン太慰めてあげようかな」
「はっ!?」
「昨日泣いてたよ、ブン太…弱いトコ見られるのを嫌うから、そっとしておいたけど…」
泣いてたって言うのはウソだけど、昨日は部活中ため息ばかり吐いてた。
何を悩んでるかなんて聞かなくてもわかるしね。
「……俺、は悪くない…」
「そ。まあ早く仲直りしてよ。部活にも支障が出そうだし」
「…スマン」
結局原因はわからなかったけど、あまり長引くのも得策ではない。
―――――
「部長、どうでした?」
「どうでした?」なんて、どうして俺が探り入れた事に気付いたんだろう。
不安気に尋ねてきた赤也の頭を撫でてやる。
「ダメだね、やっぱり原因がわからないや…って赤也、ここコブ出来てるよ?」
「…昨日丸井先輩に殴られたんスよ…」
「…あぁ…随分機嫌悪いみたいだね」
「…すっげーピリピリしてますよ」
涙目になりながら話す姿は可愛らしい。
だけど、2人ともこのままでは口を割らない気がする。
だから、
「よし、俺がブン太に行くから、赤也は今度は仁王に聞いて」
「仁王先輩、殴ったりしないっスよね?」
「たぶん」
「…わかりやした」
余程昨日のが痛かったのか、心配そうな赤也には気の毒だけれど、後輩と言う立場なだけにどうあしらわれるかは曖昧にしか答えられない。
相手があの2人でなければ心配いらないんだけれど。
―――――
「仁王先輩!」
放課後の部活中、俺は幸村部長の指示の下、今度は仁王先輩に話し掛けていた。
「…今度は赤也か」
「先輩ひどっ!」
「お前ら物好きやのぅ、わざわざ仲裁にくるなんざ」
「だって丸井先輩が機嫌悪いと、部活の空気最悪っスよ?ただのヤンキーですもん…」
「ははっ!今度ブンちゃんに教えたろ」
「やめてくださいよー!…あ、て事は仲直り出来たんスか?」
「いや…」
「なんだぁ…あ!じゃあ俺が丸井先輩への愚痴聞くんで、さっき俺が言ったのは言わないでくださいっス!」
―――――
「ブーン太!」
「!!…あー、幸村くん…ごめん」
「何が?」
「みんなに迷惑かけてるよな、オレ…」
赤也は仁王に向かわせ、俺はブン太の様子を伺う事にした。
昨日はやはりイライラしてたのか、今日はまったく覇気がない。
「ブン太は悪くないんだろう?それより問題は仁王だよ!あいつが機嫌悪いとどこぞのチンピラみたいだし」
「…ぷっ!あははっ、確かに!」
「……ブン太は、機嫌直った?」
「……オレ悪くないし」
「そっか、じゃあ今から俺がとことん仁王への不満聞いてあげるよ、ね?……それとも、ブン太が望むなら体で慰めてもいいんだけど」
「えっ!?はっ、話だけ聞いて…!」
―――――
「でさ、プリンかきまぜて食うしさー!」
「それはないよね」
「しかも、シェイクするプリンとか買ってきてくれた時なんか、食い終わった後自分のくわえさせるし!」
「………うん」
「大体あいつ、自分は大して食わないのにオレが喜ぶからって色んな食い物買ってきて食わせるくせに、オレの事太ったとか言うしよー」
「…まあ、それはちょっと気をつけた方がいいかな」
「…えっ、…やっぱり?…」
「うん」
「……………、他にも嫉妬しいのくせに何か鈍感だし、すぐからかうし、所構わず盛るし、ムダにエロいし、女にはやたら優しいし、…」
「あと1個」
「え?」
「次ので10個目。とっておきがあるんじゃない?」
俯いたブン太の頭を撫でてやれば、静かに口を開いた。
「……仁王、いつもオレの事ばっかりで、自分の事話さねえし…」
「…そっか。少しは落ち着いた?」
「うん…」
―――――
「赤也聞いとるんか?」
「聞いてますよー、プリン混ぜただけで怒るぐらい短気って事でしょ」
「プリッ。それに、やたら仕草がいやらしくてなー…理性が保たないなり」
「……」
「そこらの女子よか可愛いから、ついいじめたくなるしのぅ」
「うわっ、先輩ひどーい、あ、ちょっと!髪グシャグシャしないでください」
「そのくせして、無防備に上目遣いしたり抱きついてきたりするんよ」
「はあ…」
「最近なんか、ちょっと太ったんじゃないかって聞いてるのに俺が買ってきた菓子は全部完食するし、あれば痩せる気ないな」
「…買ってこなきゃいいんじゃないっスか?」
「ああ!」
「………」
「それにな、ブン太“幸村くん”大好きだし、女にはやたら愛想がいいし、チビ達も好きだから俺の事構わんくなる時あるし、…」
「あ!」
「ん?」
「次で10個っス」
「…え、そんなに言うとる?」
「何か特別イヤ事あるんじゃないっスか?」
そう言って目を合わせると、仁王先輩はフッと俺から視線を逸らした。
「………ブンちゃんいつも周りばっか見てて、自分の事わかってない時あるんよ…」
「なあんだー!」
「へっ?!あ、幸村部長!」
仁王先輩の言葉の後、突然の声に驚いて立ち上がると満面の笑みの幸村部長と恥ずかしそうに俯いてる丸井先輩がいた。。
「2人とも同じような事言ってるじゃん」
「「え?」」
言われた言葉に、2人のリアクションが重なる。
「第一、相手のイヤな事10個も言えるなんて、普段よっぽど見てなきゃ言えないよ?」
「「………」」
「それだけ見てるって事は好きだからだろう?仁王もブン太も、意地っ張りで頑固で…よく似てるよ」
幸村くんに言われてる事が恥ずかしくて、ちらりと仁王を見ればオレと同じようにバツが悪いのか顔を覆っていた。
「これで解決っスねー、あー良かった」
「で、結局原因は何だったの?」
「「一昨日ブン太(仁王)が、高熱あるのにデートにきたから!」」
「「はあ?」」
今度は俺と赤也が揃って呆れてしまう。
「俺悪くないだろうに。ブン太が楽しんでるの見たら風邪なんか気合いで治るぜよ」
「バカじゃねえの!?お前普段から不摂生なのに、無理したら倒れるっつうの!」
「ブン太こそ無理しないで寝とれば良かったんじゃ。お見舞い行っちゃるんに」
「オレは熱じゃなくて、仁王とデート久しぶりだから寝不足でふらついてただけだし」
「………2人揃って風邪ひいたのは何でかな?」
今だに言い争う2人を見てると呆れを通り越してイライラしてきた。
「!!…えーっと…」
「偶然!いや偶然ってゆうよりこれはもう運命だっちゃ!」
動揺するブン太とやたら饒舌になる仁王。
2人が何して風邪ひいたのかなんて最早明確だよね。
状況のわかってない赤也は呆気に取られてるけど、今回八つ当たりされてたんこぶまで出来て1番の被害者だ。
「そうか、仁王とブン太は運命共同体かあ…へえー」
「「…幸村(くん)?!」」
「そうだなあ。今回俺と赤也にも迷惑かけられたからね、何か聞いてもらおうかな」
「部長、そんなんい」
「…勝手に仲裁来たんお前ら…」
「反論は許されないからそのつもりで」
さあ赤也、何させようか。
俺はまだ若干腫れの残る赤也の頭を撫でると、清々しい気持ちで部活の支度に向かった。
(ブンちゃんが風邪ひくから…)
(そんなのお前もだし!つうか冷房入れすぎたお前が悪い!)
おわり
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