夏だ!体育だ!プールだ!
『きりーつ、れーい、ありがとうございましたー』
チャイムと共に、賑わい始めた教室の片隅。
オレは寝呆け眼の恋人の席まで行くと声をかけた。
「仁王起きろよ!次体育だぜ!」
「…おー…はよ、ブンちゃん、起きるからそんな頭叩かんで…」
「だーっ!わかってんなら早く行こうぜ!今日からプールだし♪」
「……あ、…」
「え、お前まさか道具忘れた?」
「…いや、そうじゃないけど…」
「何だよ」
「すまん、ブン太。俺水泳は毎年入らんの…」
「はぁ?何でだよ!」
「…カナヅチだから…」
「…嘘くさっ!つーか去年、みんなで海行ったじゃん」
「海は平気」
「意味わかんねぇし」
「だってなブン太。考えてみ?俺が水泳キャップ被ってゴーグルとか」
確かに今まで合同体育や同じクラスになった事がなかったから、仁王がカナヅチだなんて知らなかった。
そして、あまりに真剣に言うものだから想像してみた。
「……!!っ、あっははははははっ、スゲー、ださ…っ!」
「………うっわ、さすがに傷つく」
「っごめ…っはぁあ、笑った笑った。…え、あ、もしかしてそれで?」
「そ。俺の美的センスに合わん」
「ありえねえ…つうか、何で誰も疑問に思わないんだよ…」
「ま、そこはペテン師の企業秘密っちゅう事で。さて、そんな訳で俺は今年も見学だから、ブンちゃん早よ着替え行きんしゃい。もうみんな行ったぜよ」
言われて教室を見渡せばオレと仁王しかいなかった。
「あ、けどその前に、」
急いで教室を出ようとしたオレを呼び止めると、抱き締められて首筋にキスをされた。
「おっまえは、」
「ブンちゃんの水着姿楽しみにしとるよ」
にこやかに言い放った恋人のピンクのオーラが見えてしまったオレは、結局その日の水泳には参加させてもらえなかった…。
おわり
[ 51/68 ][next#]