ショートケーキ

―――昼休みに、仁王のバカー!と言い捨ててから、何だか話しかけにくくなってしまった。



だって、プリンと言えばプチンと出して、あのプルプル感を楽しみながら食べるモンだろ?


カップの中でぐちゃぐちゃに混ぜたプリンは、イチゴがのってないショートケーキぐらいガッカリな話だ。

仁王はオレの楽しみをわかってない―――



ガラスの器の中で揺れるプリンを眺めてオレはため息をついた。










―――あ、仁王だ…。



次の日顔が合わせにくくて、いつもより少し遅い時間に普段待ち合わせしているコンビニに向かった。


店内を覗くと銀髪を発見。

やっぱり目立つな、あの頭…とか思いながら店の外から様子を窺っていると、昨日と同じ棚の前で立ち止まった。


そして、しばらく考えて、何かを手に、レジに向かうのが見えた。


何を買ったのかは見えなかったけど、仁王に気付かれない内にオレは部活へ向かった。






部活中も、オレがダブルスだからと言う事もあって、話しかけるタイミングもまったく掴めないまま、気付けば夕方。
…帰りの時間となっていた。



そして幸村くんに急かされるまま部室を出て、門を過ぎたところで、先に帰ったと思っていた仁王に呼び止められた。



「何…、待ち伏せかよ」


「…うん、好きだーったのよ、あ〜なたーって」


「……何の歌だよ」


「荒井さんの歌」


「誰だし…」


「………」



めちゃくちゃ気まずいっ…。
つか、「好きだった」って過去形?
え、プリンが原因でオレら別れ話?


そんなの、イヤだ―――



「…で、待ち伏せてて何か用?」


「…こうでもしないと、ブン太話し聞いてくれないやろ」


図星な上、不安で泣きそうになる顔を見られたくなくて黙り込んで俯いてしまった。


「俺な、甘いモン苦手なんよ」


「…知ってる」


「うん。でもな、ブン太がいつも幸せそうにお菓子とか食べてるの見てると、俺もたまーに食べてみたくなるんじゃ」


「うん」


「で、昨日プリン食べたらブン太怒らせて…愛想尽かれたかもしれんけど…」


仁王の弱々しい声に顔を上げると、眉が下がった淋しそうな表情をしていて、言葉を否定するのがやっとだった。








「あんな、ブン太はショートケーキの上のイチゴだと思うんじゃ」


「イチゴ?」


その後しばらくして発せられた仁王の言葉は意味がわからなくて。


「ショートケーキにとって、なくてはならんモノ」


『だから、これからもずっと俺にとってのイチゴでおって』



そう言った仁王に腕を引かれて抱き締められた。



やっぱり仁王の腕の中は心地いい。
不安にかられてた気持ちが落ち着いていく―――



「…仁王のバカ…」


「うん」


「お前、オレの気持ち全然わかってないし…」


「そうか?さっきまで不安で泣きそうだった、だろ?」


堪えてる涙をごまかすように仁王の胸に顔を押し付ければ、更に力強く抱きしめてくれる。


「…そーだけど、……ぁ、お前今朝何買ったんだよ」


「?」


「コンビニ。またプリン?」


「あー…甘いのはしばらく懲り懲りだな…。でもやっぱりあれブン太か、あの赤い頭」


「は?」


「外にチラチラ見えたから、そんな気はしたんだが…目立つのぅ」


頭を撫でてくれる手が優しい―――


「なっ!え、つか目立つのはお前もだし!」


「…そうだな、そろそろ視線も痛いから帰るぜよ」


「視線…?」



―――その言葉に、ここが学校の前だと言う事を思い出した。
いくら休日の夕方でも、少なからず人の通りもあるわけで…。
慌てて離れようとすると、腕を引いて歩き出した仁王が振り向いた。


「コンビニでケーキ見た時に、もうすぐブンちゃんの誕生日だって思い出したんじゃ」


そう言って優しく微笑んだ仁王を、やっぱり愛しいと思った―――








おわり

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