病める君も健やかなる君も。〜2014仁王誕生日〜

「…ごめん」


布団の中から申し訳なさそうに視線を向けるブン太…の額には熱を冷ますシートが貼られ、枕にはアイスノン。潤む瞳は熱のせいだろう。


「珍しいのぅ、ブン太が風邪とは」


「なー…」


額を押さえ情けなさそうに頷く姿に見ているこちらの胸が痛む。


「誕生日さ、まさか祝えないと思わなくてプレゼントねえんだよな」


そう、今日は俺の誕生日である。
期末試験とあって憂鬱でもあるが、今日は試験最終日。早く帰ってブン太がケーキを作り祝ってくれると前々から言っていた。
しかし学校に行けば姿がなく、まさか欠席してまで作らないだろうと連絡をしてみれば、朝から熱を出してダウンしていたのだった。


「そんなん気にせんで、早く治しんしゃい」


頭を撫でてやりながらそう言うとブン太が再び謝る。


「ブン太と一緒に過ごせるなら、十分幸せな誕生日よ」


「安上がりな奴だな…」


「誰かと違って食費も掛からんしな」


「うっせ…」


弱々しくもいつものような会話をしていると、ブン太の瞼が下りてきた。
どうやら昼食後に飲んだ風邪薬が効いてきたらしい。


「ブン太が寝るまでここにおるよ」


「…仁王、誕生日おめでと…」


そうして寝息をたて始めた姿に笑うと熱で火照った頬にキスをした。












目が覚めると時刻は夕方。
朝より軽くなった身体を布団の中で伸ばして、渇いた熱冷ましシートを額から剥がすとゆっくりと上体を起こした。
汗ばんだ寝間着が心地悪いが、これなら熱も下がっていることだろう。


「におう」


雑誌を読んでいるらしく、足元の方でベッドに寄り掛かっている背中に擦れた声を掛ける。

返事がない為、掛け布団をずらしてハイハイしながら近付くと静かに寝息が聞こえた。


「…バーカ、風邪引くっつうの」


「…ん…、っくしょい」


タイミングでも見計らったようにくしゃみをした仁王に驚いていると、あくびをして、オレに気付くと体調を尋ねてきた。


「さっきより、だいぶ楽」


「そか」


「うん。…寝てる間に帰ってると思った」


眠る前、仁王はオレが寝るまでここにいると、そう言ったから。


「ブン太の寝顔見とるの好きやし、おばさん達留守にするゆうたから熱あるのに放っとけんし。…それに、誕生日プレゼントまだ貰ってないけんのぅ」


「…いらねえって言ったろぃ」


「気にすんなってゆうただけじゃ」


結局プレゼント待ちなのか。
「仕方ねえな、今からケーキ作ってやるよ」とため息を吐きながらベッドから降りたオレは仁王に腕を引かれてバランスを崩す。


「ケーキはいいから、ブン太をちょうだい」


抱き締められた暖かい腕の中でそう言われて、熱の下がった身体が再び火照った気がする。


「…しょうがねえな」


きちんと向き直ると、仁王の唇にキスをする。
僅かにいつもより熱いその感触に更に熱も高まる。

けど。


「…オレ病み上がりだから、今日はこれで我慢しろよ」


「……」


そう言って俯いたものの、返事をしない仁王に再び視線を向ける…と、


「っはぁくしょい…」


豪快なくしゃみが。
顔を逸らしてくれたから直接浴びてはいないが、これはもしかして。


「ぶえっくしょい」


額に触れると仁王にしては暖かい体温。
くしゃみのせいか、熱のせいか潤んだ瞳。


「移ってるじゃねえかよ…」


鼻を啜り始めた仁王に呆れてため息が漏れる。


「こりゃ、誕生日プレゼントはおあずけだな」


笑ってやると悔しそうな顔をした仁王を尻目に、オレはキッチンへと向かったのだった。







おわり




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