さくら日和(幸ブン)〜2014丸井誕生日〜
「今度さ、お花見に行こうぜ」
ブン太にそう誘われたのは、高校の入学式を控えた4月の始めの事だった。
「オレ弁当作って来るしさー。ここらだとやっぱ鶴岡八幡宮あたりかな」
そう楽しそうに予定を立てるブン太に俺も笑顔を向けた。
「…幸村くん、あまり乗り気じゃない?」
はずだった。
「そんな事ないよ。いいねお花見…ブン太は花より団子になりそうだけど」
笑って頬を摘んでそう言うと、彼もいつものように怒る。
と思ったんだ。
「幸村くん、自分が笑えてないのわかってないだろぃ?」
「え…」
今度は俺が頬を挟まれてしまった。
「いいって無理しなくて」
ヘンな顔、と笑いながら離れたブン太に内心でお前がやったんだろうと思いながら後を追う。
海沿いを並んで歩けば、暖かい日射しが気持ち良い。
「ごめん…俺さ、桜の花って好きじゃないんだ」
「うん」
ぽつりと漏らせば、隣からは相槌が聞こえる。
「桜の木の下には死体が埋まってるとか聞くしさ」
「え、椿じゃなかったっけ」
「まあ、それは冗談だけど。…去年さ、病室から舞い散る桜を毎日眺めてたら、無性に哀しくなったんだ。俺もこんな風にこのまま散るのかなって」
「…」
病に倒れて、テニスが出来なくなるのではないかと不安を感じた時期だった。
後に医師からはっきりと聞かされた時はただただ絶望した。
「大丈夫だって」
不意に指が触れて顔を上げると、ブン太が笑顔を見せる。
「ちゃんとテニスも出来たし、病気だってこの先いろんな方法で完治出来るって!」
彼が言うと本当にそうなるような気がするから不思議だ。
「ありがとう」
誰もいない海岸で身体を抱き寄せると額にキスをしてやった。
「ブン太、今度の日曜日お花見に行こう」
幸村くんにそう誘われたのは、高校に入学して10日程過ぎた頃だ。
「え、お花見って…幸村くん桜好きじゃないし、もうほとんど咲いてないのに?」
「いいから行こうよ、お弁当作ってきて欲しいな」
日曜日はオレの誕生日でもあって、その日に彼氏と出かけるのだから当然楽しみではあるのだけど。
「…無理してない?」
「してないよ」
確かに今日の幸村くんは楽しそうに笑っている。
安心して了承すればまた嬉しそうに微笑んだ。
「どこ行くの?」
当日になっても行き先を教えてくれなくて少し不安になる。
「お花見だよ」
なんてはぐらかすけど。
作ってきたお弁当は幸村くんが持ってくれた。
校門近くの桜はすっかり花は散ってしまっていたのを思い出す。
お花見なんて出来るのだろうか。
「着いたよ」
案内されたのは公園だった。
「ここら辺でお弁当食べようか」
ピンク色の花が咲き誇る花壇の近くで幸村くんがそう言った。
周りには桜なんて見当たらなくて首を傾げる。
「桜、見に来たんじゃねえの?」
「桜だよ」
ピンクの花を指差して笑う。
「正確には芝桜って言うんだけどね。これ、4月20日の誕生花なんだ」
「え」
「花言葉は、臆病な心とか燃える恋、華やかな姿…本当は他にもいくつかあるんだけどね。…ブン太みたいでしょ?」
花壇を眺めていた幸村くんがこちらを向いて笑う。
「誕生日おめでとう」
誕生日に誕生花を、なんて。
キザ過ぎる。
そう思うのに嬉しくて。
「幸村くんらしいなぁ、もう」
「そう?」
「これじゃあお花見っつうかピクニックじゃん」
「そうかも」
ベンチに腰掛けてお弁当を広げた。
「…ありがとう」
面と向かって言うのは何だか恥ずかしくて、小さく漏らせば笑顔を向けてくれた。
幸村くんとなら、こんなお花見もありかもしれない。
おわり
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