title | ナノ
「「あ」」


家の前でバッタリ会ったのは近所に住んでいる年上の幼馴染だった。


「遼じゃん久しぶり、元気してる?」
「元気だよ、なまえ姉こそ相変わらずうるさそーで」


こんな朝早くからとつけたせばニヒヒと笑みが返って来た。
駅まで方向は同じなのでそのまま一緒に歩く。
カツカツ、ヒールの音に違和感を感じてチラリと隣を盗み見る。
スニーカーにズボンで一緒になってボールを追い回していた姿はもちろんそこにはなかったし、たまに見かけた時のラフな格好でもない。
化粧された顔に、耳元のピアス、首にもネックレスがしてあって指にもリングがされていた。


「一応女らしくしてんじゃん」
「え?」
「ピアスは前からしてたけど」


ちなみにスーツ姿なんて真面目な格好も初めて見るなんて、口に出せば何を言い返されるか分かったもんじゃないから心の中だけで呟けばなまえはまたニヒヒと笑う。


「ずっと前からしてるよ」


そうだったか?と思ったりしていればもう駅に着いてしまった。
いつもは車だから会わなかっただけで、なまえはいつもこんな時間に職場に向かうのかなんて珍しいスーツの後姿を見送ってから俺も電車に乗り込んだ。
それから普通に練習をこなしていれば、珍しくGMに呼ばれた。





「クッソー!」
「もっと静かに飲めないんスか」


俺が呼ばれたのは協会から五輪への出場要請があったからで、皆の前で発表があった後あれこれ支度やら目を通す書類やらをやってたら練習時間が終わってしまった。
もちろんちょうど車でなかった事もあったしで、世良さん筆頭に拉致られて飲みに行く事になったわけだが。


「ったく、いつまで吠えたら気が済むんスかねアンタは」
「るせえ!」


世良さんは愚痴でも相変わらず声がデカイ。
まあ、祝い酒という事で奢りだし仕方ないから最後まで付き合ってやろう。
とは言っても明日も練習があるから皆それなりの時間でお開きになる。
ラッシュからは外れた電車に乗り込んで、座れないものの俺の機嫌は流石に良いままだった。


「りょー」


地元の駅を出て歩いていれば、背後から聞こえたその声に振り返れば上機嫌で手をひらひら振るなまえがいた。
その顔が赤い事から、どうやら同じく飲み帰りらしい。


「一緒に帰ろう」
「嫌だよ、この酔っ払い」
「いーじゃんかー」


フンフン、と鼻歌混じりに歩くなまえに溜息を吐くもまあどうせ駅から家までの些細な時間だと諦める事にする。


「遼も飲み会だったの?」
「まあそんな感じだな」
「何その顔…いい事でもあった?」
「まあね」


ふふんと鼻で笑って見せれば、ふーんと首を傾げて不思議な顔をされた。
特に内容を聞いてこなかったからそれ以上は口を開かず歩く。
カツカツ、響くヒールの音になんだか違和感を感じてチラリと隣を盗み見てみれば、さっきまで上機嫌で鼻歌を歌っていた姿はなく、少し下を向いて歩くだけのなまえがいた。


「到着」


俺の家の前に着いてなまえがくるりと身体をこちらに向けた。
肩にかけた鞄に添えられた手に指輪がなかった事に気付いて指をさす。


「指輪、なくなってる」
「えっ!?」
「ばっ…何でそんなトコ見てんだよ手だろ手!この酔っ払い!」
「え、あ、あぁ」


あははと、引っ張っていたシャツの胸元から手を離したなまえが笑う。
その笑みがどこか陰っていて、何かあって元気ないのかなんて感じた俺は仕方ねぇなと心の中で溜息を吐いてから「決まったんだよ」と告げた。


「何が?」
「何って五輪」
「……」
「予選メンバーに選ばれた」


沈黙、それから突然なまえは声を上げて飛びついて来た。
酔ってる勢いもあって本当に近所迷惑な音量でおめでとうと俺の頭をグリグリ撫でるから、止めさせようと俺は必死になった。
首に腕を回して、頭を撫でてくるその腕を掴んで引き剥がす、と。
視界に入ったのはなまえの首元、はしゃぐその身体にあたって跳ねたネックレス、に繋いである見た事のあるブサイクな銀の輪っか。

あれはいつだったか、そう、中学の時だったか…授業で銀粘土なんてもんを弄った。
もちろん面倒で適当に作ったんだ、自分には小さ過ぎたそれを。
そして出来上がったそれを俺は…



     




鎖がその輪とすれて音を奏でる。
頬が、熱い。
咄嗟にネックレスを掴めば、はしゃいでいたなまえがピタリと身体を硬直させた。


「ずっとしてるって?」
「えっ、あ……」
「前からずっとだって?」
「そ、そうよ悪い?」


開き直った酔っ払いはまたあーだのこーだの、ここが俺の家の前なのも忘れて顔を真っ赤にして騒ぎ始める。
ああクソ!なんだってんだ今日はよ!
俺はそのまま近所迷惑にその口を塞いでやる事にした。







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ちょっと消化不良だけど不憫でないザッキーなハズ!素敵な企画に参加させて頂きありがとうございました!(月冠/瑠羽拝)

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