鳥乙女の災難(2)雨林のナズナ

 久々に姫御前の神域に来てみたものの、此処は相変わらず紅いものばかりで目が痛くなる。姫御前の趣味に口を出すつもりもないし(言うと怒るし)、黙って出された茶を啜る。

「……鎌鼬、とな……? 落首出来る程となると、心当たりが無いがの。肥後の熊鼬ですらそこ迄の威力は出せまいて」
「やはりか……なら妖では無いのかも知れないな」

 それを聞ければ用事は済んだ。さっさと帰ろうと腰を上げると、姫御前が袖で口元を隠し、くつくつと嗤った。この仕草、銀狐そっくりで中々に腹立たしい。

「面白い話が有るのじゃが……聴いて往かぬのかえ?」
「……何の話かに依る」
「なぁに、饕餮が天界で謹慎を受けておると云う話よ」
「…………何だと? 月夜が?」

 いつの間に。最近様子がおかしかったのもその所為か? 気付けなかった自分に呆れつつ、再び腰をおろすと、姫御前は上機嫌に話を続ける。

「何でも、白八咫(シロヤタ)の逆鱗に触れたらしくての、謹慎中は断食の罰を与えたそうじゃ。あの食い意地の権化にはさぞや辛かろうのぅ。覿面であろ? こちも見物に行ってやろうかの」
「……白八咫……? もしかしなくてもエレ、か。成る程……それなら色々と辻褄が合うな。全く……だからあれ程手を出すなと言ったのに。自業自得ではあるが、流石に断食は可哀想だな」

 はぁ……と溜息をつけば、姫御前はますます愉しそうに喉の奥を鳴らす。

「その言い方だと、矢張りエレ……白八咫は今下界に居るのか」
「おや、聞いて無いかえ? 余りに不貞腐って寝汚いとな、銀狐が神域から追い出したと言うておったわ」
「初耳だ。そもそも最近銀狐に会ってない。会いたくも無いがな」
「ほぅ、なればさぞ寂しがっておろうな。いい気味じゃ」

 相変わらず仲が悪いな。どちらも性格悪いから仕方ないが。

「……とりあえず、今日の所は失礼する。時間を取らせたな、姫御前」
「なぁに、構わぬよ。暇で暇で飽き飽きしておったからの。また遊びに来ると善い」
「あぁ、気が向いたらな」


 * * *


「……は? 月夜が天界で謹慎? 何それ」
「うげぇ……極刑じゃないッスかぁ……!」
「まぁ、そうらしいな。天界ならいくら断食しても死にはしないから、月夜はとりあえず反省して来るとして……エレは矢張り現世に居るらしい。問題は、月夜がエレに何を仕出かしたのか、なのだが……はぁ。全く……月夜め。戻って来たら覚えてろよ」
「そっち方面の基準はよくわかんねぇけど、そんだけエレを怒らせるって相当じゃねぇの? 俺が言えた事じゃないけど」
「そうだな、謹慎と言うより監禁に近いだろうから、罪状は情状酌量の余地無しだろう。ミヤが言えた事では無いがな」

 返すと、ミヤは真顔で口を噤んだ。

「それにしても……白八咫烏(シロヤタガラス)なんて大層な名で呼ばれるくらい神格上がってるとか、相変わらずエレちゃん、末恐ろしいッスね」
「昔から神獣に好かれる上に、対人外に於いては比喩では無く最強だからな、エレは」
「神獣と言えば、リコがこっちに来たいって言ってたッスけど、連れて来ていいんスかね?」
「あぁ、構わない。リコも心配だろうし……ん? 待てよ。エレが銀狐の神域に居たのなら、リコにも会って居る筈だ」
「マジ? ちょい、ポチ公。ダッシュでリコ連れてきてくんね?」
「りょーかいッス!」


 *


「ヒナ、早く元気になるといいなー?」
「そうだな。だからもうちょい休ませてやってくれるか?」
「わかった!」

 クリアパーテーションから出てきた人型リコとミヤに飲み物を出してから、自分も席に着く。少し見ない間に、リコは随分と言葉が上手になった様だ。

「……リコ、少し聞きたい事があるのだが」
「んー? どした?」
「銀狐の神域に居た時、花の羽根を持った女性が居なかったか?」
「居たぞー、クチナシだろー? リコ、飛び方教えてもらったんだ! 元気かなー?」
「クチナシ……梔、か。木偏一文字。巫の名として銀狐が付けたんだろう」
「クチナシ、どうかしたのか?」
「いや……現世に居るみたいなのだが、見つからなくてな」
「んー、あっ! 現世に会いたくないヤツが居るから、神域から出たくないって聞いたことあるぞ? 今度会ったら消炭にしてやるって言ってた!」

 無邪気なその言葉に、ミヤがテーブルに突っ伏す。

「……消炭……」
「うわぁ……ご愁傷様ッス……」
「自業自得だけどな」

 リコが不思議そうに私たちを見た後、何か閃いた様に「あっ!」と声を上げた。賢くて何よりだ。

「まさか、クチナシが言ってたスケコマシヤローってミヤビのことか!」
「スケコマシヤローってオイ……まぁ、否定はしない」
「そっか! ミヤビ、サイテーだな!」
「うわ、無邪気さがこわいッス……」
「すげぇ心にクるんだけど……って、こら! 何笑ってんだよ、ミオ!」
「んっ……こんな幼子にまで最低と言わしめるとは、本当に……っ、ふっ」

 両手で顔を覆って笑いを堪えていると、ミヤが若干気落ちした声でリコに話し掛ける。

「あのさ、消炭になって詫びたいんだけど、何処居るかわかんねぇんだよな。どうしたらいいと思う、リコ?」
「んー、とな? まず、消炭になって、それから目立つところに置いてもらえばいいと思うなー!」
「ン゛ッ!!」
「ちょ、姐さん!? 大丈夫ッスか!?」
「このぶっ飛んで物騒な思考、絶対エレとヒナの影響だと思うんだよな……」

 引きつった笑みを浮かべながら、ミヤが力なくボヤいた。

 
 * * *


「ふぇ……くちょ!」
「!? 今の何!? クシャミ!?」
「ごめん……」
「いや、可愛いからいいんだけど……どしたの、風邪?」
「わたしは病気にならないから、たぶん、誰かが噂でもしてるんじゃないかな」

 デートと称して研二くんとショッピングに来た。最大の認知阻害を掛けたので、万一知り合いに会っても大丈夫な筈だ。まぁ、予め位置情報の確認はしたから、見つかる事はあるまい。それより、だ。

「ねぇ、このワンピースとかどう? 似合うと思うなぁ〜?」
「うん……可愛いね」

 服やアクセサリーを勧めてくれるのは大変嬉しいんだけれど、実を言うと余り興味がない。その上、ヒト用の服だと非常時に羽根を出せないので着られない。アクセサリー類も、金属や石は術を使う際に雑音になるので、余り好きではない。その事を、伝えるべきか、否か。にこにこと楽しそうにわたしのために色々選んでくれる研二くんの気持ちに水を差すのはどうなのか。

「……クチナシちゃん?」
「ん?」
「もしかして、楽しくない?」

 シュン……と項垂れた耳としっぽの幻覚が見える。とりあえず研二くんの手を引いて、休憩用のベンチに座らせ、わたしも隣に座る。

「……研二くんと出掛けるのは楽しい。けど、人間用の服は、その……何かあった時に羽根が出し辛いから、着ないんだ。アクセサリーも、術を使う時の妨げになるから、必要なもの以外は着けない。ごめん、つまらないでしょう」
「そっ、か。俺こそごめん、知らなくて……俺もさ、クチナシちゃんと出掛けられるのは、すっごい楽しいから! じゃー、何か食べに行く? そうしよ、ね?」

 立ち上がってわたしの手を引く研二くんは、相変わらず優しい。わたしの本性を知ったら、彼はどう思うだろうか。

(呪いが解けているのは、一時的なものだろうから……その前に、終わらせないと)

 そう考えながら、わたしは彼の隣を歩く。


 …………………………


 レムの視界を通して、雨宮弟と降谷零の仕事ぶりを視ている。

(ボロを出さないのは流石だけれど……妹の代わりにタナトスが出て来たのは面倒だな……)

 今日の任務も手筈通りに無事終了。撤退したのを見届けてから、レムの視界を遮断する。

 亡霊(スペクター)による『革命』の舞台は、整いつつある。

(リリスの事だ、小賢しい罠を仕掛けるつもりだろうけれど……程度が知れている。それよりも、厄介なのが『不死』の禁書だ)

 摩天楼の天辺で、わたしは思考を巡らせる。

(……やりたくはないけれど、やるしかないか)

 街明かりに照らされた曇天を見上げながら溜息をひとつ。もうじき雨が降る。


 …………………………


「久しぶり、松田陣平。元気そうで何よりだよ」
「うわ、本当に喋ってる……いや、前から喋ってたけど」

 実に微妙な表情を浮かべた松田陣平が、研二くんの後からリビングに顔を出した。

「それで? わざわざ呼び出して、話って何だよ」
「まぁ、ちょっと……見てもらいたいものがあって。研二くんも」

 テーブルを挟んで向かい合って座った二人の目の前に、指を弾いて三種類の段ボール箱を出現させる。

「プレゼント……ではなさそうだね?」
「開けてみるといい」

 促すと、二人はそれぞれ目の前にあった箱に手を掛け、その中身を見て絶句した。

「なんだよ、これ……」
「新型爆弾のレプリカだよ。構造についてはわたしが組んだから概ね現物と相違ないでしょう。お休みの日に申し訳ないけれど、この型の爆弾処理法を習得して欲しい」
「……お前……何のつもりだ?」

 サングラス越しに、松田陣平がわたしを睨んだ。

「……“スペクター(亡霊)”を知ってるかな?」
「スペクター? ……幽霊? 組織の名前か? 知らねぇな」
「だろうね。知らない方が健全だ」
「えっと、クチナシちゃん? ちゃんと説明して欲しいんだけど」
「……そう、だね。スペクターは、主に武力の貸付をしている闇組織。他組織に武器や傭兵などを貸付ている。最近になって日本に拠点を移したんだ。そしてその上層幹部には、数名の異能者が居る」
「異能者……って、ダンタリアンみたいな?」
「そう。だから現在進行形で、黄昏の会と公安が潜入捜査をしている。そして、わたしも」
「なっ……!? お前も!?」
「うそ……じゃ、ないんだね? クチナシちゃん」
「誓って。わたしの目的は禁書の蒐集。黄昏の会は世界の危機回避、公安は国の安寧。目的は違えど標的は一緒なんだ。だけれどわたしとしては、スペクターの早期瓦解が最適解だと考える。でもその為には、手札が足りない」
「……俺たちに、お前の手札になれと?」
「いいえ。でも、備えあれば憂いなし……この三つの爆弾は、スペクターが開発している特殊な構造のもの。万一の可能性を憂慮して、保険を掛けておくのは常套でしょう」

 もう一度指を弾いて、これらを解体するための道具をふた揃え。

「……よもや、此のわたしと親しくするヒトが、当然としてこれくらい出来て貰わねば……尚もすれ、(いず)れわたしが困ると云うもの」

 意図して挑発的に言い切れば、二人は互いに顔を見合わせたあと──そっくりな笑みを浮かべた。

「ハッ……上等じゃねぇか!」
「よーし、クチナシちゃんの為に頑張らなきゃね!」
 
 そう意気込んで目の前の箱に取り掛かった二人に、心の中で謝罪する。

(ごめんね、巻き込んで……それでも、わたしは……)

 わたしは、今度こそ……為すべきを成さねばならないから。


 * * *


「あの〜……」

 樹のトンネルをざくざくと進む後ろ姿に、恐る恐る声を掛けると、シズクとそっくりだけど微妙に違う顔が、振り向きながら柔らかく微笑んだ。

「どうかしたの、ヒナさん?」
「いや、その〜……色々周って来ましたけど、あとどれくらい掛かります?」

 問えば、口元に手を添えて小首を傾げる……雨宮さんちの双子のお兄さん。シズクと性格が違い過ぎやしないか? いや、それを言ったら私と兄もだけどさ。

「……まだもう少し掛かるかな。もしかして、もう帰りたくなった?」
「えぇ……? それは最初から言ってますよね? 今すぐ帰りたいです、はい」

 見た目年齢的には歳下なんだけど、この『雨宮零』と云うヒトは、何て言うか……逆らっちゃいけない雰囲気がある。一見すると物腰柔らかく、言動も穏やかなイケメンなんだけど……機嫌を損なえば何を仕出かすかわからない、危うい二面性とでも言えばいいんだろうか。一言で済ませるならヤンデレ気質。とにかく、ラスボス臭がプンプンしておる。兄もだけど、こういう手合いは絶対に怒らせちゃいけない。私知ってる。

「そう。でも、まだ終わってないから……もう少し、付き合ってくれるよね?」

 絵画の聖人像みたいに完璧な笑顔なのに、副音声で『いいから黙ってさっさと歩け』って聞こえるのは気のせいだと思いたい。うへぇ……この子、あの実兄以上に腹黒だよ……? 仕方ないので大人しく後をついて行く。

「……此処を終わらせたら、今日は休もうか」

 そう言って、彼が足を止めた先にあった景色は──水に沈んだ東都タワー。その遥か水底に、摩天楼の天辺がよく見える。

「……ここも……『駄目だった世界』、なんですか……?」

 私の不躾な質問に、水面から藍灰色の双眸を逸らさないまま、彼は答える。

「そうだね。そう……確かに、僕たちはこの世界を守れなかった。しかし、僕たちはその義務は存在しない。だけど……守りたかった、それだけ。その悔恨の後始末をこうして今、君に頼んでいるんだ。……情けないよね、先に生まれた筈なのに……それすら、守れなかった」

 自嘲するように、彼は視線を逸らさぬまま、無理矢理口角を上げた。その表情に、何だか親近感と言うか……既視感が、湧き上がる。

「…………もしかして……シズクの、ため?」
「……まさか。僕も弟も、自分のためだけに生きた。その事については後悔なんて無い」
「だったら……もっと大切なひとの、ため?」
「……そうかな。どうだろう。居るのが当たり前で、いつでも側に居てくれたのに……もう会えないなんて、信じられなくて」

 呟いたその言葉の意味に、ぎゅっと胸が苦しくなる。

「……わかりました。最後まで付き合いますよ。シズクのお兄さんが、納得出来るまで」

 私が頷いて見せると、表情を失くしたその人は──『ありがとう』と、微塵も心にも想って無いであろう返事を返した。


 * * *


 テーブルの上に置かれた一通の招待状を囲んで、俺とミオ、ポチ公は頭を抱えていた。

「ヒナも月夜も居ないのに……」
「もういっその事、姐さんが単騎特攻でいいんじゃないッスか?」
「駄目だ。確実に甚大な被害が出る」
「自分で言うなよ……」

 ハァ……と同時に溜息が漏れる。

 ダンタリアン宛のその招待状の内容は、閣僚を集めた会合と言う名のパーティーの案内だ。当のダンタリアン()は相変わらず眠ったままなので、どう考えてもご臨席賜れない。そして、妹の禁書も未だ行方知れずのまま。はっきり言って八方塞がりだ。

「あとは、ミヤビの旦那を生贄に、エレちゃん召喚するしか無いッスね」
「それで解決するなら、俺は別にいいけどさぁ」
「一週間以内に見付かると思うのか?」
「無理ッスね!」

 ポチ公がお手上げのポーズを取ったあと、がっくりと項垂れた。

「人手が足りなさ過ぎッスよ……まさか島の獣人たち使う訳にもいかないッスもんね」
「そもそも彼等にさせる事では無い。彼らは普通の安寧を享受する資格がある」
「そりゃそうだ。ただでさえ人生ハードモードなのに」

 はぁ、と何度目かのため息をついていると、俺の携帯端末が震えた。フルヤくんからだ。

「……ここに呼ぶけど良いよな? 割と非常事態だし」
「そうだな……申し訳ないが、今回ばかりは仕方が無い」


 *


「……成る程、この会合は黄昏の会を誘き出す為の罠も兼ねている訳か」
「残念ながら、我々もまだスペクター内の異能者の全員を特定出来ていない」
「そうか……」

 ダンタリアンの不在は伏せて、この会合で起こるであろう事態を説明すると、フルヤくんは米神を押さえながら険しい表情を浮かべた。一緒に来たモロフシくんは、隣の部屋で眠っている妹を見舞ったまま戻ってこない。

「……スペクターに拉致された政治家が無傷で戻って来たのは、内部に反乱分子を引き入れる為。その他の政治家数名も買収されているようだ。それから……俺とシズクは給仕として参加しろと、先程レムからお達しが来た」
「恐らく、会場にはリリス含め他の異能者も居るだろうな。一網打尽にしたいところだが、その場合人質と会場は諦めてもらうしか無くなる」
「到底許可出来ないな」
「当然だ。我々とてそんな愚策は決行しない。奴等の目的はダンタリアンだろうから、そもそも行かないと云う選択が正しいだろう」
「そうだな……しかし、国の首脳陣を人質に何を要求するつもりなのか……」
「まぁ、どうせ碌でもねぇ要求だろーよ」
「だろうな。そう言う訳だから、今回、我々黄昏の会は公安のバックアップに協力したいが、どうだろう」

 タナトスの提案に、フルヤくんが小さく息を呑んだ。

「公安のバックアップ? 逆じゃないのか」
「あぁ。だが、今回充てられる人員は私とヘルメス、プロメテウスのみだ。ヒナの事もあるから、ミヤは此処から離れられない」
「……ダンタリアンとロキは? それに月夜も」
「別件で外している。帰還は未定だ」
「成る程、お前たちも人手不足という訳か……いや、わかった。最善策を練ろう。宜しく頼む」
「こちらこそ、急な提案ですまない」

 フルヤくんとミオが、ガッチリと握手したのを見届けてから口を開く。

「フルヤくん。宜しくついでにシズクに伝言頼んでいい?」
「シズクに? 何だ?」
「……『Glaub nicht, dass du damit durchkommst.(後で覚えてろよ)』、って」


 * * *


 ブーッ! と解体失敗のアラームがリビングに鳴り響く。

「あー!! クッソ!! もう一回だ!!」

 苛々しつつも挑み続ける根性は素晴らしい。松田陣平の隣で、手を止め休憩していた研二くんにお茶を渡しながら、私もラグに座りその様子を観察する。

「ねぇ、クチナシちゃんがこれ組んだって事は、解体も出来るの?」
「まぁ、それなりには。能力使った方が早いから、あまり実戦でやる事は無いけれど」
「なるほどねー、そりゃそうだよなぁ」
「チクショウ……その能力くれよ。ずりぃだろ」
「ねー。俺も欲しい」
「能力の移譲か……出来なくは無いけれど、拒絶反応が出た場合、悲惨な事になるからオススメはしないな」

 わたしが言うと、何を想像したのか二人の顔色が途端に悪くなる。話題を変えた方がいいだろうか。

「そういえば、わたしの友人が研二くんたちに会ってみたいって言ってたんだけれど」
「お前友達居たのか」
「ちょっと、じんぺーちゃん!」
「元同僚だからね、友人とは言えないのかな……」

 ちょっと今のは流石のわたしでもグサッときたな。でも、仲が良いのは確かだし……悩んでいると、研二くんが「じんぺーちゃんの言う事は気にしないで!」と取り繕った。

「えっと。元同僚って事は、その子も異能があるの?」
「あるよ。生き物なら殆ど何でも治癒出来るんだ。その代わり、実戦には向いて居ないんだけれど」
「治癒能力か……それも便利だな」
「その子は双葉って言うんだけれど、おっとりした美人だよ。今度連れて来てもいい?」
「もちろん! そっかぁ……楽しみだね、じんぺーちゃん!」
「別に……」

 黙々と解体を続けている松田陣平のレプリカから、解体成功のアラームが鳴った。

「っしゃー! でもだいぶ遅ぇな。アンタは何分で出来んだ?」
「一応、会の訓練では一分以内に出来ないと不合格だけれど、キミたちは身体加速使えないからね。そうだな……それでも五分以内には出来るよ」
「……身体加速?」
「認識知覚を意図的に向上させるんだ。得意な人だとナノセカンド(十億分の一)秒を自己体感で一秒くらいに引き延ばせる」
「えっ……なに、それ。よくわかんないけどすごい」
「これは技術だから、習得出来るかはわからないけれど、今度教えようか?」
「えっ、絶対教えて欲しいんだけど」
「俺も」
「わかった。今度教えるね」

 基礎中の基礎だし、会の規定にもこの技術の流用は禁止事項に無かった筈だ。だから教えても大丈夫でしょう。万一の時にも役に立つし。巻き込んでしまった以上、二人には身の護り方も教えなくては。











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