一日目
「──え、キノさん!? 偶然ですね!」
とある国の街中でシズはキノと出会った。徒歩のところを見るとエルメスは宿にいるのだろう。
「こんにちは………シ、ズさん?」
沈黙+疑問形だったが名前を覚えてくれていてシズは幸せな気持ちになった(なんて幸せが小さいんだ)。
「陸君、ティーちゃんも元気そうだね、こんにちは」
キノが笑顔を2人(?)に向けた。それにシズの気分はやや下降した。陸はともかくティーのことをちゃんと覚えてるなんて……。
「お元気そうでなによりです」
陸もティーもぺこりと頭を下げた。 キノはそれぞれの返事に微笑んで、ティーの頭を撫でた。ティーも嬉しそう(多分)にしている。シズはそれを羨ましそうに見ていた。陸はそんなシズを痛ましそうに見ていた。
「宿、もしかしてまだですか? ボクが泊まるところ安いですよ。良ければ案内しますが」
ティーの頭に手を置いたまま、キノが言った。
「ぜひ! お願いします!」
同じ宿ならたくさん話せる!と思い、シズはキノの優しさ(注:キノにとっては旅人のよしみ)に甘えることにした。
「こっちです」
キノは先導して歩き出した。 と、ティーが走り寄ってキノの手に触れた。
「…………」
キノは黙って見上げてくるティーの意図を察し、にっこり笑って手を握った。 どうやらティーはキノに懐いたらしい。そしてキノもティーが可愛いようだ。 後ろでシズは複雑そうにしていた。その後ろで、やっぱり陸が複雑そうにしていた。
宿に着いて、宿泊手続きを済ませたあと、そのまま一緒に食事となった。 キノの隣に座ろうという密かなシズの野望(野望も小さいね、シズ)は砕かれた。 ごく自然にティーが隣に座ったからである。まあこのメンツなら自然な流れかもしれない。
「ティーちゃん、口にソース付いてる」
キノがくすくす笑いながらティーの口元を拭ってやる。いつのまにこんなに親しくなったのだろう。 ソースを拭き取ってもらったティーが自分のハンバーグを切り分けてキノに突き出した。
「くれるの? ありがとう」
ティーの持つフォークをそのまま口に入れるキノ。いわゆる「あ〜ん」と間接キスである。だが女同士でティーは幼い。別に深い意味は無い(あってたまるか)。 だがシズはもの悲しくなり、ふと自分の隣を見た。 もちろん空席(陸は足元)。 改めて悲しくなって(寂しさも加わった)、ふっ、と自嘲的に笑った。陸は一部始終を見ていたので主に同情しつつ、もっと気丈になってほしいと思った。
「おいしかったですね」
お腹が満たされたキノの表情は明るい。
「そう、ですね……」
心が満たされなかったシズの表情は暗い(食事中、キノはティーに付きっきりでシズとの会話は皆無だった)。 そんなシズの様子には気づかずキノは挨拶をして部屋に向かおうとしたが、
「?」
キノは腕を引っ張られて動きを止めた。 視線を下に向けるとそこにはティーが。
「一緒に寝る?」
そのまま離れようとしないティーに、キノが提案した。シズは固まった。
「…………」
こくこくと二度もうなずいたティーは、嬉しくて仕方ないのだろう。キノは笑んで、またティーの頭を撫でるとシズに向き直った。
「そんなわけでティーちゃん、借りますね」 「え? あ、ああ、うん……迷惑かけないようにね、ティー」
必死に保護者然とするシズに陸はこっそりため息をついた。 手を繋いで去る二人の会話が聞こえる。
「…どうせだからお風呂も一緒に入ろうか」 「ええっ!?」
思わず叫ぶシズに陸は頭を抱えた(ように見えた)。
二日目
二日目
次の朝、シズが食堂に行くと例の二人はもう来ていて、やっぱり楽しそうだ。
「おはようございます、シズさん」
珍しくキノの方から先に気づき、その事実がやや沈んだ気分を浮上させた。
「おはよう、キノさん、ティー」
旅の同行者であるティーの名よりもキノが先に出るところを見ると、かなりの重症だ。 シズは同じテーブルに着き、食事を始めた。
「──よろしければ、買い出しご一緒させてくれませんか?」
最中、言おうと思っていた言葉を先に言われて、シズは喜びかけたがいや、これは……と思った(正解)。
「もちろんです」 「ありがとうございます。実は僕もティーちゃんといるの、楽しいんですよ」
やっぱり。 シズはがくりと項垂れた。
そして今日もキノとティーは手を繋いでいた。
エルメスは部品交換があるので置いていくわけにはいかず、始めはキノが押して歩いていたが、今はティーの淋しそうな様子を見かねたシズがエルメス担当となっていた。
「本当に走る以外役に立たないポンコツだな」 「お前なんか変態王子の後に付いて行くしかできないじゃないか!」
そのエルメスと陸はずっと喧嘩をしている(しかもエルメスは何気なくシズのこともけなしている)。 前の女の子二人組は楽しそうにショーウィンドウなどを見ながら歩いている。
(……なんだろう、これは)
前と横をちらっ、ちらっと見て考えた。 意中の人は自分の保護した娘と仲睦まじくしている。 忠実な僕(そんな風に思ったことはないが)はモトラドと会話(喧嘩だが)しっぱなし。
(─…もしかして、俺は孤独か?)
なにやらとてつもなくむなしい感情に襲われるシズ。
結局買い出しと観光の間中、シズはずっとひとりぼっちだった(分かりやすく言うと、グループ内でカップルができあがり、一人余った感じである。辛い)。
そのうえ、その夜もティーはキノの部屋に行った(今度はキノが離れたくない様子だった)。 それを見て、子ども好きなキノさんはかわいいし好ましいけど、なんか……とシズは思った。 それを見て、悩むことは悪いことではないし人を成長させるが、なんか……と陸は思った。
三日目
三日目
この国でキノと食べる最後の朝食──もやはりティーとの仲の良さを見せつけられた(別に見せつけてはいない。シズの被害妄想)。
「じゃあ、お別れだね」
シズたちとは異なる道を行くため、キノはティーに別れを告げる。 シズ一行に笑いかけると、キノはエルメスに乗ろうとした。しかしそれはできなかった。 ティーがキノに抱きついたからである。
「わっ、ティーちゃん?」
キノが呼びかけてもティーは首を振ってキノを抱きしめるばかり。 しばらく困ったようにしていたキノだが、しゃがんでティーと目線を同じにすると優しく微笑んだ。
「きっと、また会えるよ」
短い言葉だったが、キノの思いはティーにはしっかり伝わったらしい。 ティーはキノをじっと見上げていたが、うなずいて最後にもう一度キノを抱きしめた。
「またね、ティーちゃん、陸君」
満面の笑みを一人と一匹に送ったあと、シズに向かって頭を下げる。
「それでは」
キノはシズたちより一足先に城門をくぐっていった。 キノの姿が見えなくなるまで見送ったティーは満足そうな(と思われる)顔でバギーに乗り込んだ。それを見て陸がシズに言った。
「私たちも行きましょうか、シズ様」
しかしキノが去った方向を見たままシズは動かない。
「──シズ様?」
やはり振り向かない。
「シズ様! どうされました?」 「…………陸…」
やっとこっちを向いたシズの顔は青ざめている。
「キノさん……」 「が、どうしました?」 「キノさん、陸とティーには“またね”って言ったのに、俺には“それでは”って…!!」
“またね”は“また会おう”という意思が込められている(と作者は思う)。むしろ「また会おうね」の略だと思う。Good byeとSee you againの違いである。 シズは敏感に(?)それを感じとったのである。
「ふ、深い意味は無いと思われます」
忠義に篤い陸はシズの言う意味を否定した。
「…………そ、う…だな……」
陸のためにも自分のためにも納得することにしたシズであった。
ライバルは案外近くにいるものである。
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アレです、シズのライバルはティーと陸です。あとエルメスも結構高い壁になりそう。犬と少女に嫉妬する元王子(笑)
一日目に比べて二日目と三日目が短いのは、私の構成力の無さのせい
コパンダ様、感想ありがとうございます! この話はコパンダ様に(勝手に)捧げます あ!「ていうかなに名前出してんだこの野郎」と少しでも思ったら意思表示して下さい。即刻消しますので!!
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2007/08/28 |