「シズさん、それ貸して下さい」
シズさんの刀を指差す
「これかい? はい」
シズさんはなんの抵抗もなくボクに刀を差し出した
「どうも。─…やっぱり業物ですね」 「目利きもできるのか。さすがキノさんだ」
感心した顔でボクを見るものだから、つい目をそらしてしまった
「いえ、刀には詳しくないですが…ボクもナイフは使うので。同じ刃物ですから」 「なるほど」
全くの丸腰で、全く無防備な、シズさん
「……」
にこにこと笑って、ボクを見て そこには不安とか警戒とかの感情が一切ない
──旅人のくせに
逸らしていた目を合わせて黙っていたら、不思議そうに首を傾げる
どうしたのキノさん、そう言うシズさんに 右手を上げて切っ先を突きつけた
「──ダメですよ? そんな簡単に武器を手放しては。獲物が一つなら尚更」
シズさんは刀に一瞬目をやってから、ボクを見つめてきた 先ほどと同じように
「…ボクがあなたを殺して金目の物を奪うつもりだったらどうするんです?」
ボクもシズさんの瞳を見つめ返した 数秒の沈黙 シズさんは普段の穏やかで優しげな微笑を浮かべると口を開いた
「キノさんはそんなことはしないよ」 「言いきれますか」 「ああ。…でも、もし万が一そうなっても──俺は、キノさんに殺されるなら、本望だ」
ああ そんな顔をされたら
そんなことを言われたら
ボクは、 あなたから、
離れられなくなってしまう
刀を放りだして、相変わらず無防備なシズさんに抱きついた
「死なないで下さい。お願いだ、から…死な、ないで…」
この人がいなくなるなど考えられない もうボクには考えられない
腕に力を込めた この優しい人が消えてしまいそうで怖かった
いつだって不安だった
会えないときなんて胸が締めつけられて、死んでしまいそうで
不意に、黙ってされるままになっていたシズさんの身体が動いて、大きな手がボクの頭をゆっくりと撫でた
「死なないよ。…キノさんを置いて死んだりしない」 「…は、い」 「──だからキノさんも、俺を置いて消えたりしないでくれ」
顔を上げると、どこか泣きそうな表情でボクを見つめていた
─…ああ、そうか このひとも、ボクと同じように…
「消えません、死にません──あなたが、望むのなら」
ボクは命の選択を委ねてしまうほど あなたから、離れられない
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初めてシズを好きなキノを書こうと思ったの。 いつのまにかこんなに大きな存在になっていたのかと思うキノを書きたかったの。 つまずいたの。
私の中ではシズはキノのためだったら喜んで死ぬ覚悟があるんです。でもキノは望まない。そしてシズはキノの願いは全て叶えたい。だから生きる。
うん。伝われ!(笑)
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