はじまり



特別な魔力を持つキュウコン一族にはある言い伝えがあった。「一族より生まれし金の毛並を持つ子は必ず双子で生まれ、他の者より秀でた強大な魔力を持つ」と。
しかし世間にはこのような言葉もある。「姉より優れた妹などいやしない」と。
その言葉を嫌う妹は、代わりよく繰り返し頭に浮かべる言葉があった。
「キュウコンの9本の尾には、不思議な力がそれぞれ宿っているという。例えば、1000年生き続ける生命力や、人の心を操る神通力、そして…


――尾に触れた者を子孫も含めて1000年呪い続ける力。」


***


きつねのおはなし 壱


***

ある肌寒い秋の日。すでに地面へと落ちた真っ赤な葉たちは地面を覆っている。人里離れた山の奥、その紅葉のじゅうたんの上にキュウコン一族は暮らしていた。彼らは他のキュウコンたちよりも特別力に優れている者のみで構成されており、長寿のキュウコンが多数いる。静かに山と暮らし、共に生きてきた誇りある一族だった。
そんな一族は今日、やけにざわついていた。キュウコン達は、みな長(おさ)の元へ赴いている。その視線は一様に長の妻に抱かれた子らに注がれていた。
すやすやと寝息を立てて眠るその子らの容姿。それは金色の毛並を持つ、美しい雌のロコン。それも、双子の、だ。

「言い伝え通りだ…」

ある者が口にすると、また別の者がその言葉を口にする。長い時を生きることのできるキュウコン達にとっても、この出来事は非常に珍しいものだった。
一族に伝わる言い伝えは真ではないと信じる者も多かったのだ。しかし今日、それは事実であると誰もが認めざるを得なかった。一族の者たちは息を飲んで双子を見つめる。

「長、この子らはどうなさるおつもりで?」

言い伝え通りならば。この双子の姉妹は、何十、何百と長い時間を過ごしてきたキュウコンたちよりも圧倒的に秀でた魔力を持っていることになる。それは、今は母親に慈しまれながらすやすやと眠る可愛い娘たちが、一族にとっての脅威になりかねないことを示唆していた。
先ほどの質問の意味を、誰にでも理解できるようにするのなら、それはつまり。

「殺さぬよ。勿論」

長は数秒間をあけて、老いているとは思えないほどに凛とした声だった。赤い瞳は冷たい光を宿している。それは今後どんなことがあろうとも、この娘たちに手を出すことは許さないという警告の証でもあった。その威厳に反論を考えていたキュウコンたちはみな口を噤(つぐ)む。
その様子を見て長は安心したように、ほほほ、と老いた笑いを零した。その雰囲気は一転して柔らかく、顔は娘を可愛がる父親のそれである。一族の者たちは一抹の不安を抱えながらも、生まれてきたばかりのその新しい命に惹かれていった。





「生まれてきてくれてありがとう、私の娘たちよ」

そう呟く長は、いやこの場にいた誰もがこれから一族に起きる悲劇を想像してはいなかった。

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長は多分800年以上生きてるけど現役バリバリで子だくさんなんだろうなと(適当)

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