※男主(クズ)




屍人を打つ。まださほど体液と赤い水が入れ換わっていなかったらしいそいつから、耳障りな呻きと共に鉄臭い匂いのする赤が飛び散った。

頬についたそれを腕で拭い、真っ赤に染まったバールを一瞥して、同行者の安全を確認するべく振り返る。

求道師と呼ばれるその人は、目を固く瞑って、両の手を救いを求めるように力強く握り合わせていた。
敬虔な聖教徒がそうするように、彼もまた何かに祈っているようだった。
それは、眞魚教の神に対するものか、先立った自らの父へか、八尾に向けたものなのか。

最後こそ有力ではあるが、きっと漠然としたものだろう。
自らをこの地獄から救ってくれるならなんだっていいのだ。それは、きっと、俺でも。

「牧野さん」

そっと、その手を上から包み込み彼に優しく呼びかける。
濡れた瞼がおそるおそる開かれ、すがるような彼の目が此方に向いた。

「カイリく、」

「大丈夫、屍人は倒しました。さあ此所から離れましょう」

にこりと笑いかければ、牧野さんの強ばった表情が僅かに弛む。
ああ、この顔。今まで何回見てきただろうか。

繰り返し、繰り返し。
何度も牧野さんを目の前で失って。
繰り返し、繰り返し。
牧野さんの目の前で朽ち果てて。

牧野さんと共に死んだことも、共に屍人になったことも、肉塊と化した牧野さんを食べたこともある。

いずれにしても、どうやったって俺は過去に巻き戻った。
その度、愛しいこの哀れな人を助けるために奔走するのだ。

ループの記憶があるのはどうやら俺だけで、この人も、全ての元凶である牧野さんの惨たる母親代わり求道女も、その他も、何も覚えてやいやしなかった。
牧野さんを殺そうとするいじましくなんとも可愛いらしい牧野さんの弟だけは、稀に覚えてる時もあったけれど。

何処かで聞こえた銃声に、小さく悲鳴をあげて牧野さんが俺にしがみつく。

「あ...、す、すいません。つい...」

「いえ。構いません」

前々前回と同じ会話。
これも彼は覚えてはいないだろう。

酷く脆いその身体を抱き締めて、その耳元で呟く。
前々前回彼に言えなかった言葉だった。

「牧野さん、貴方は俺が絶対に守ります」

「...カイリ、くん」

本当に? と不安げに見上げられたその瞳に、しっかりと頷けば、控え目な微笑が浮かんだ。




「厭きない人だ」

「...今回は、覚えてるのか」

物言わぬ屍になった牧野さんの髪を掬う。
額には、穴。
撃ったのは言わずもがなだった。

冷たくなった空を抱える俺の前に、彼の弟である宮田が無言で跪く。

俺は黙って牧野さんを抱えたまま、宮田の頭に手を回し引き寄せた。

噛みつくように乱暴にその口に、自らのそれを押しつける。
舌を捩じ込み、互いのを絡め合わせれば、空っぽになった牧野さんにどちらのものとも言えない唾液が落ちた。

交差点のど真ん中、いつ屍人が来るかも分からないそこで、宮田を地面に押し倒す。

宮田が覚えている周回。
彼が牧野さんを殺した後はほぼ決まってこうだった。
何時から、どうなってこうなったのかは忘れてしまった。

牧野さんそっくりの顔をした彼を抱く。
愛しいその人の亡骸の前で、愛しいその人そっくりな宮田とする行為は堪らなく興奮した。

宮田の固くなった部位に触れる事はせず、真っ先に後ろのソコに唾液をつけた指を這わせる。

「っ」

宮田の息を呑む音が聞こえた。

入れるぞ、一言そう言って、ぐにゅり、と閉じられたそこに中指を押し込んだ。
中壁を広げるように指を遊ばせ、程よく緩まってきた所で抜く。

もういいか。
屍人が来ても困る。

「宮田、入れるぞ。腰上げろ」

素直に上げられた腰を掴み、解し終わったそこに自身をあてる。
息を吸って、掴んだ腰を勢いよく引いた。

「っあ゛ぁ...!! 」

根元まで深々と刺さったそれに、宮田が悲鳴をあげた。
中を掻き回すように動かせば、ガクガクと揺れる宮田の身体。

「ここ、気持ち良い だろ」

「ひっ ぃ゛」

反応の良い所は大体覚えている。
乱暴に突き上げてやれば、一層その身体は激しく打ち震えた。

「あっあぁぁ カイリ、カイリっ、ぃ」

「はは、女みたい だな 宮田っ」

流石に後ろだけでは達する事は出来ないだろうので、ゆるゆると腰を動かしながら、前に手をやる。

すっかりギチギチになったそこからは先走りが溢れて、辛そうだ。

やさしく撫でただけで、宮田は肩をひくつかせて、苦しげな吐息を洩らす。
悩ましげに歪められたその顔が酷く扇情的だ。

「っ ...カイリ、ぅ」

「あぁ」

切羽詰まった宮田の声に煽られ、俺は要求に応えるべく、今一度その腰を引き寄せた。




交差点に、乾いた発砲音が轟く。
弾は俺の頭を貫いた。

微かに残った意識で、宮田に礼を言う。

求道服に身を包んだ宮田は最後に此方に一瞥をくれ、己の使命を果たすべく駆けて行った。

隣には牧野さん。
今回は肉塊じゃあない。

自嘲的な笑みを浮かべて彼の頬に触れれば、彼の冷たく綺麗な肌に精液がこびりついた。




ウロボロスの環の裏





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