※男主注意





奴は時々俺の事を玩具だと称した。
常々嫌だと思っていたのでその心情を吐露すれば、玩具というのを奴は止めた。
そして、今度は愛玩動物と呼び出した。
コイツには何を言っても通じないんだと俺は諦めた。

今も目の前でにたにたと笑うそのくそったれをねめつける。

「ベネ!相変わらずいい目だ」

学生時代からの腐れ縁であるコイツは、裏の世界に足を踏み入れてからも、時折俺の前に姿を表した。

俺が一等気に入っているこのカフェも、コイツが来れば台無しだ。
それでも俺が定刻に来るのは、俺の不在に拗ねたこの馬鹿がマスターや常連の知り合いに人様の学生時分の恥ずかしい話を吹き込むためだ。

本当に勘弁してほしい。

「マスター、おかわり!フロートで!あ、カイリのツケで頼むよ」

ジュコジュコと、あっという間に飲み干したメロンソーダのグラスを掲げる馬鹿。
この店にツケなんてねぇよ。つうか、俺に払わす気かコイツ。

「誰がてめぇなんかに奢ってやるか、自分で払えバラすぞ」

「ムリ。財布忘れちゃった」

「ぁ?」

「ディ・モールト ベネ!いいねえ、その顔 たまらない」

頬をむんずと掴んで上下にシェイクする。
無駄に整ったその顔が不細工に歪んで、実に小気味がいい。

「まあいい。お前に貢がされんのもこれで最後だ」

元々日本で産まれた身である俺は、今まで両親の仕事上の都合で此方に住んでいた。
親の任期が終わったため、数日したら、荷物まとめて向こうに行く事になっているのだ。

もう、コイツと会うのも最後だ。
そう思うと清々する。

きょとんとする目の前の男に、そう帰国する事を伝えれば、奴は酷く傷ついたような顔をした。

は?


「そうか、帰るのか」

初めて見る奴のその表情に、動揺する。
発せられた声は心なしか震えていた。

「こっちにはもう来ないのか?」

「あ、ああ。その予定はない」

「そう、か」

グラスを握りしめる奴の両の手。

「メロ、」

「ちょっとトイレ行ってくる」

「メローネ!!」

席を立とうとしたメローネの腕を咄嗟に掴む。

寄せられた眉根。今にも泣き出しそうなそのメローネの顔に、自分でも何がなんだか分からなくなる。

俺はコイツが嫌いだ。
人の事を玩具だの愛玩動物だのと、馬鹿にしくりさりやがって。
その癖、うざったいくらいに俺に執拗につきまとう。
学生時分なんて特にそうだ。
カイリ、カイリと毎日毎日飽きもせずついてくるコイツが大嫌いだった。
卒業して、コイツがそういう世界に入った事を聞かされた時だって、さっさと死ねばいいと思った。

なのに。なんで。

「なんで、お前がそんな泣きそうな顔すんの」

「っ」

嫌いだ、嫌い。大嫌い。
だのに、泣きそうに歪むその顔に、今更ながら愛しいなんて感情が芽生え出すから。

思わず、つい奴の髪を引っ付かんで。
その憎らしい唇に噛みついた。





嫌いの二乗






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