シュクレルスュークル

「ダニエルさん!」

目の前で急ブレーキ停車した車のドアを開いて乗り込めば、そこにはボインゴとダニエルさんの姿が。
傍らのテレンスが息を飲んだのが分かったが、今はそんなことは言ってられない。

「ボインゴ、予言は!?」

「だ、大丈夫です...。DIO、さまは はい、今頃車の中、です、はい。」

車の中というのはウィルソン上議員の車の中で違いないようだ。
間もなく承太郎達とDIOの戦いが始まるだろう。

今、俺がしなければならないのは、ボインゴの予言にあったDIOの支配下にあった人間の来襲から逃れること。

「あーああ、勿体ねえぜ」

ホル・ホースが遠のく館を振り返りながら言う。

「どっちにしろあの館にはすぐに承太郎含めたSPW財団の人間が来ます。誰かなり亡くした後の承太郎の虫の居所は最悪でしょうね」

「ハッ、残りたいなんて誰も思っちゃいねえよ」

言って電子煙草をくわえたホル・ホースを横目にテレンスの方を見れば、どこか遠い目をして窓の向こうの館を見送っていた。

"貴方と、共に行きます"。
そう言ったのはテレンス。テレンスが選んだのは俺だ。
その選択を前提とした計画だったから、そうなってもらわなきゃ困るのだけれど。
予想通りの結果ではあったが、やはり仕えた主を裏切ることとなったのは大きかったらしい。

「テレンス」

膝の上で握り締められたその手に手を重ねれば、テレンスのすがるような目が此方を向いた。

「カイリ...」

"カイリがいるから構わない"。
あの屋根裏部屋が機能していた頃を思いださせるその瞳に、充足感を抱く俺は果たして浅ましいだろうか。

「何か、食べたいのあるか?」

テレンスの不安を拭うように力強くその手を握る。
以前より少しばかり大きくなった掌の温度は昔とちっとも変わってはいなかった。

テレンスは目を丸くしてこちらを見ると、昔を懐かしむように頬を弛めた。

「アップルパイが、食べたいです」

あの頃と変わらないその表情があんまりにも可愛いものだから、ついたまらなくなって、つくし頭をわしゃわしゃと撫で荒らしてしまう。

「甘さましましで作ろうな!」

「あれ以上の甘さにしたら胸焼けするんでやめてください」

つい、と照れたようにそっぽを向くテレンスだけれど、握られた手が離されることはなくて。

離されない所か、よけいにぎゅうと握り締められたその手に、ああもう一生離してくれるもんかと一人ごちに思った。








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