・ヒロト視点
・若干裏表現有り




















ねぇ父さん、退屈なら、おもしろいはなし、俺がしてあげるよ。
ねぇ本当におもしろいんだよ。だまされたと思って。


ガゼルとバーン、居るじゃない。まぁ、いまは、ただの涼野と南雲だけれども?


ねぇ、彼らはね、もうね、変で、おもしろいんだ。彼らはお互いがいないと生きてゆけないのです。
これは、比喩でも何でもないんだよ、父さん。
どっちかがしんじゃったら、片方もきっと、あっというまにしぬよ、本当だよ。


どういうことかと、云うとね、まず、ガゼルについてだけど、あっちがう、涼野だったいまはもう、うん、まずは涼野のはなし。


彼はね、バ…南雲がいないと、ダメなんだ。
どういうふうにダメかっていうとね、ごはんが、食べられないんだよ。
涼野は、南雲がそばにいないとごはんを呑みこむのが非常に困難らしい。いや、本当に。
だからね、今日もなんだけどぉ、ごはんのときは南雲に横に座ってもらって、それで、ちょっとだけ南雲は涼野に触れているんだよね。
服の裾とかね。うん。小指とかを指切りしてる時もあった。そうしてもらわないと涼野はどうしても食物を摂取できないんだって。呑みこめないんだって。
トカゲのなますでも呑むように、涼野が苦しそうに一口一口ごはん食べてるそばで、南雲はぼうっとしてるんだ。
ぼうっとしながら、涼野の服の裾をぎゅっと握ってる。
涼野が食べ終わるまで。食堂に誰もいなくなるまで。毎日毎日長い時間…。


ね、ね、おもしろいでしょう。…。おもしろいよね?

…。

それで、えっと、南雲はと云うと、ね。彼も相当だよ。


彼もね、ガ…涼野がいないと、ダメなんだ。
どういうふうにダメかっていうとね、眠ることが、できないんだよ。
南雲は、涼野がそばにいないと眠りにつくのが非常に困難らしい。いや、本当に。
だからね、昨日もなんだけどぉ、眠るときは涼野に抱きしめてもらって、それで、ずっと涼野は南雲を撫でているんだよね。
頭とかね。うん。もっとやらしいことしてる時もよくあった。そうしてもらわないと南雲はどうしても睡眠をとることができないんだって。いつまでも目がさえちゃって。
見るかもわからない悪夢におびえるように、南雲ががたがた震えてる横で、涼野はぼうっとしてるんだ。
ぼうっとしながら、南雲のあのか細い体をぎゅうっと抱きしめてる。
南雲が眠りにつくまで。空が白みはじめるまで。毎日毎日長い時間…。


彼らはもうダメなんだよ。
だんだん、だんだん、ふたりが離れている時間というものが、目に見えて短くなってって。
一時間も離れてたら、お互い息できなくなってるみたい。のどひゅーひゅー言わせちゃってさ。
昔はそんなことまったくなかったのにね。


昔っていうのは、涼野と南雲が、ガゼルとバーンになる前のことだよ父さん。


うん、うん、きっといまごろはぴったり寄り添って寝てるよ。カワイイよね。やらしいこともしてるかもしれない。
最近はとみにやらしいことしてるんだよねあのふたり。いつでもどこでも。
こないだあそこの廊下の真ん中でなんかしてたよ。
南雲がね、仰向けの蛙みたいなカッコした南雲がね、もうだめきもちいしぬしんじゃうああんふうすけもっと、もっともっともっと、ってそのようなことをね。
あはは。あはは。あはは。


ね、ね、おもしろいでしょう?…。おもしろくないかな?


うーん、そうだなぁ、少なくとも、俺はすごくおもしろいと思うよ。





わらえてわらえて。