仲睦まじく、あるいはバイオレンスにセックスした翌朝のこと。そんな朝、もし、愛する恋人がキッチンでけなげにもコーヒーなんぞを淹れている後ろ姿を見たら、どうする。わたしはもう幸せで幸せで、この世界は実はさっきの夢の続きのまやかしなのかもと恐ろしくなって、吐き気を催した。湯気の立つカップを持ってあちらで佇んでいる晴矢。ああいっそこの幸せな夢の中で彼と心中でもしたら楽になれるんじゃないかしらと思うほどだ。それも良いなと思って、晴矢の背後に音もなく立つ。その真っ白な優美な神々しいうなじに両手をかけようと手を伸ばしてみる。指先が、昨夜の痣に触れた。


「起きてたのか」


振り返らずに晴矢が言う。なんということだ、晴矢には何でもお見通しという事か。感服。これでは、いつだってわたしが彼に敵わないのも道理というもの。


「ああ…おはよう、晴矢」


おはよう、と晴矢も言う。これが現実だなんて!後ろからぎゅうっと抱きしめると大変に芳しい香りがした。いや、コーヒーのではなく晴矢の。こんなに幸せなのは夢に違いないはずなのだが、頬擦りした晴矢のうなじはひどく熱かった。