・成人済みの風晴とヒロト




















「で、」


俺は出された胡麻煎餅をおしとやかにかじりながら切り出した。あ、なにこれ美味しい!どこの?無〇良品?へええ覚えとくよ。俺は続いて煎茶を啜る。ほうっと一息つくと、机を挟んだ向こう側からはめんどくさそうな溜息。む。


「なあ、言いたいことがあるんなら早く言えよ…」


俺の向かい側、心底だるそうにローテーブルに肘をついた晴矢は、心底どうでもよさそうにぼそぼそ喋った。なあ風介?晴矢が、彼の隣に正座している人物に声をかける。風介も風介で、なんてだるそうな首肯。二対一なんて卑怯だ!


「だからぁ、いつもどおり俺は、君達を心配して見に来たわけ」


二枚目のお煎餅を頂きながら、だるそうな二人をねめつける。晴矢、その濁った目はなんなの!ふたりはやっぱり、またか、って顔してる。


「で、どうなのふたりとも」

「なにがだよ?」

「だーかーらー!!」


ドンッとテーブルを叩く。湯呑みが揺れた。そんな気色ばむ俺を前に、ふたりとも顔色ひとつ変えなかった。


「君達いい加減、人間らしい生活ができるようになったのかって聞いてるの!!」


なんというか、なんという失礼な質問だろうか、我ながら。


「勿論」


答えたのは風介だった。やたら誇らしげに言うと、同意を求めるように晴矢を見つめた。晴矢もすぐに頷いた。嬉しそうに。


「なーんも問題ねえよ。ふたりともキチンと毎日仕事してるし、生活費も足りてるし、家賃だってふたりで折半…」

「違う、俺が言いたいのはそういうことじゃないの」

「なんだ、回りくどい言い方をするな。とにもかくにも、わたしたちはつつがなく暮らしているのだから、心配するな」

「…じゃあ聞くけど」


なんだまだなにかあるのか…とでも言いたげな彼等に、俺はひとつ深呼吸して、そして問うた。


「君達、最近は週に何回セックスしてるのかな?」


ふたりしてキョトン顔。そりゃそうだよね、こんな…


「毎日してるけど…」


こんな質問、いままでに幾度となくしたもんね。そして、毎度のこの返答。ふたり同時に!!…あああああああああ


「あああもうッ、まーだそんな生活してたの!!??こないだあんなに注意したのに!!」


もー、思わず立ち上がってしまった。きっと見下ろしてみるけど、ふたりは顔を見合わせて、肩を竦めている。


「そんな生活って…だから、こないだもいったけど、なにが悪いんだ?」


ぎゃーっばかーっもーっ。


「悪いよ!じゃあ何、君達つまり毎日毎日ふたりして家にこもって寝て起きて食べて交尾してそればっかってことでしょ!?人間として間違ってるよそんなの!」


風介がむっとした顔をする。


「失敬な、ちゃんと仕事もしていると言っているだろう」

「仕事って、君達ふたりとも自宅でできる仕事じゃない!手に職タイプじゃない!ああーっうらやましい、ってそうじゃなくてだね」


俺は我に返って座り直した。ふう、つい熱くなっちゃった。熱くなれたぜ、ひとりじゃできなかった…。


「なあヒロト、そんなにオレたちのことで気を揉むなよ、オレたちは…」


その、すげえ幸せだからさ、とかなんとか言ってみせる晴矢。…幸せそうだね。はにかむように笑っている晴矢、それを愛おしげに見つめる風介。ちゅ。えっ、と思った時には、風介は晴矢の頬に唇を寄せていた。ひええ。


「ばか、やめろよ」


やめろよ、じゃないよ晴矢。やめろよって言ったくせに、なんで風介の腰に手を回してるの。なんで本格的にキスし始めるの。なんで舌入れてるの。ばかはどっちよ。


「んんっ、ふ、ぅん…っ」

「んっ、はぁ…、晴矢…」


あの…これは一種のほうちぷれいなんでしょうか…。いよいよ体を密着させはじめた二人は夢中で深いキスを繰り返している。ふたりの真っ赤な舌がにゅるにゅる絡み合って、よだれまで垂らしちゃって。驚きを通り越して呆れていると、とうとう、風介の手が晴矢のシャツの中をまさぐりだした。


「ストップ」


俺は冷静に止めをいれた。


「ン、ん、なんだよ、良いとこなのに」

「まったくだ」

「君達、俺のことなんだと思ってるの…」

「親切で優しい変態の幼なじみ」


そんな声を揃えて…どうせ、らぶらぶな君達にとっちゃ俺なんて道端の石ころみたいなもんだよねーあーうんハイハイ。


「…俺帰るね」

「おう、あ、その胡麻煎餅土産に持って帰っていいぜ。気に入ったんだろ」

「ありがとう」


素直に受け取る俺も俺だ。まあいいや、美味しかったしね。


「じゃあ邪魔物はおいとましませう。バイバイふたりとも、お幸せに」

「おい」


玄関で靴を履いていると、不意に呼び止められた。振り返ると、昔よりずっと背の高くなった風介が、ぬうと立っていた。


「つかぬことを聞くが」

「なにさ」

「貴様、円堂守とはどうなっている」


まあた、その話か。いつもそう、自分たちのことには割り込ませないくせして…。


「どうなってるって…うまくいっているに決まってるでしょう。そりゃあ、都合が合わないからあんまり会えないけど、でもね、俺は君達とは違うの、会える時間は少ないけどその分お互いを大切にできるの」

「…そうか」


それならもうなにもいうまい、風介は若干心配そうに呟いた。変なの。


「まあいいや、それじゃね、また来るよ」


ひらひらばたん、扉を閉めた。










「風介ー、あいつ、まだ円堂と続いてんの?」

「どうもそうらしい」

「ふーん、ま、結局あいつもオレらとどっこいどっこいだなァ」

「そんなことより晴矢」

「んー?」

「さっきの続きをしよう」










夕暮れの空を見上げながら歩く。夕日がすごく綺麗。守も観てるといいな…そんなことを考えながら、ポケットから携帯電話を取り出した。―――確か、今日は守の奥さん仕事で遅くなるって、メールに書いてあったよね。よし、電話してみよう。それで、守が家にひとりなら上がらせてもらっちゃう。奥さんが戻るまでに帰れれば大丈夫だよね。ああっ早く会いたいよ守。ふふ、こんな恋い焦がれる気持ち、風介も晴矢も知らないんだろうなあ。すごく幸せなのにね!!