最近、なんかよくわからんけど源田とかいう人間がオレを可愛がってる。

あまり芸術的センスのあるカラーリングとは言いがたい、こげ茶とちょっとの白の毛色のオレ。死ぬほど小さくて小汚いオレを。

源田が言うには、おまえは"あいつ"と似ているな、らしい。源田は、オレがよく居る汚い路地裏に、"あいつ"と一緒にやってきたりする。学校帰り、いつも源田はここに寄ってくれる。ので、"あいつ"も仕方なく寄るのだろう。オレは、らしく、にゃあうと鳴いて、源田に寄ってったり、"あいつ"に寄ってみたりする。源田がオレをあのおっきい両手のひらで抱っこしてくれる。オレは嬉しくてあうあうと鳴く。オレを胸元に抱き寄せている源田を、"あいつ"が見ている。なんかこう、いまにも発狂しそうな顔で、唇噛みながら。お前もだっこするかと源田に聞かれた"あいつ"は、誰がんな汚ねえもん触るかよと失礼なことを言う。源田は困ったように笑った。大体、"あいつ"みたいなオソロシー目つきをした人間にだっこされたら、オレ見たいなのは簡単にぶしゅっとつぶれちまうんじゃないかなと思う。源田はだっこが上手な人間だから別なんだ。"あいつ"には出来ない。絶対に。

オレは、源田にごはんをもらって、源田にだっこしてもらって、源田に茶色と白のふわふわの毛を撫でてもらって、源田の腕の中でぐっすり眠った。源田はその間もずっと、オレのせまい額を優しく優しくぐるぐる撫でていてくれた。ああーオレ幸せだよ、とまどろみながら薄く眼を開けると、なんと、"あいつ"が泣いていた。源田がどうしたどうしたと言って心配していたけど、"あいつ"はただただ、源田の腕の中で毛玉になっているオレを睨むだけだった。





ある日、ひどい雨が降ったので源田はオレを自分の家に連れて帰ってくれた。放っとけば良いのに、と"あいつ"は憎々しげに言ったが、源田は、そうはいかないんだ、と言って笑った。

そしてだから、いまオレは、うっとうしー"あいつ"とふたりっきり、源田の家のリビングにいる。源田はずぶ濡れになっちまった服の替えを取りに行っていていない。"あいつ"は床の上しゃがんで、オレのしっぽみたいなこげ茶の髪の毛から雨水を滴らせながら、オレを見下ろしている。青黒いビー玉の目。ああ、うざったい。


「おいてめえ」


"あいつ"は唐突に、オレに向かって喋りだした。オレがしっぽを揺らしながらガンとばしても、"あいつ"は少しも臆することなく、おすわりしていた。


「んだよ」

「てめえなんて殺してやりたいんだ」

「なんだと?オレだっててめえが邪魔だと思ってんだよ」

「でもあいつが」


源田のバカヤロが、おまえ死んだらあいつ泣くから、と呟いて、俯いた。


「いつでもてめえなんて殺せるってことを忘れんなよ」


"あいつ"の細い指がきゅっとオレののどもとの善い所に触れたので、不覚にもごろごろと鳴いてしまった。なにすんだよてめえ。いよいよオレがぶち切れそうになったところで、タイミングのいい源田が戻ってきた。

オレののどに手をやっている"あいつ"を見るなり、おっ、と、嬉しそうに声を上げる。なんでだ。


「なぁ、触ってみると、可愛いだろ。あったかいだろ」


源田、あんたはつくづく鈍くて空気読めないやつだなぁ。でもあんたのそういうとこがさ、オレ大好きなんだ。





その日、雨の功名で源田んちにお泊りすることになった"あいつ"は、源田にごはんをつくってもらって、源田にだっこしてもらって、源田に髪の毛を撫でてもらって、源田の腕の中でぐっすり眠っていた。ので、オレの機嫌は最悪だった。あの腕の中は、もともとオレの席じゃなかったのかな。"あいつ"と源田がぬくぬくしているベッドの傍ら、冷たい床でおすわりしてその様子をじいと見つめる。"あいつ"が勝ち誇ったような目でこちらを一瞥した。畜生、"あいつ"は自分の立場ってもんを履き違えてる。