・染岡×士郎



















眠りの質について考えるだなんてなんて贅沢で余裕のある御身分になったのだろうかと思う。キイキイと音を立てながら、染岡くんの自転車は進む。ボクはその荷台にほんとに荷物っぽくぐったり、乗っかっていた。染岡くんのおよそ中学生とは思えない広い背中。ボクは光栄にもそこによっかからせていただいていて、そのうえとろとろとまどろんでいた。人の体温(染岡くん)、夕日、河川敷の土手、自転車。ボクって××××者だな。まどろんでいるのに、ボクは必死に脳を働かせている。いまボクの体をとりまいている眠りの質についてかんがえてい、かんがえて、えて、ている。染岡くんがそばにいるときのねむりは、すごくいい。なんていうか、すごくいい。すごいなあとおもう。ボクはさいきんよくおどろく。染岡くんといると、ねむるのぜんぜんこわくない。いきをすうのも、ごはんをたべるのも、わらうのも、なくのも、きれいなものをみるのも、染岡くんといっしょだったら、なんにもこわくないんだよ、すごいねえ染岡くん。ていうか染岡くんがすごい。


「ころげ落ちんなよ」

「うん」


染岡くんはときどきボクのはなしをききながすことがよくあった。


「染岡くん」

「んだよ」


ボクはあかちゃんコアラのように染岡くんのこしにすがりついた。


「ボクねえ…こんなひろびろとしたきもちでねむたくなることなんて、もう、いっしょう、みらいえいごう、ないんだろうなあと、ちょっとまえまではおもっていたんだよ」


ちりんちりんと染岡くんがハンドルについてるベルをならすと、せまいみちいっぱいにひろがってあるいていたおとこのこふたりがボクたちをさけてった。かれらはきょうだいらしかった。あのこたちかわいいね染岡くん、あのみぎがわのこ、アツヤっぽい。このあいだしゃしんみせてあげたでしょ、わかるでしょ、アツヤってねえ、もう、ほんとにかわいいんだよ、ボクによくにて。


「吹雪士郎」


なにさ、染岡くん。なんかよそよそしいよ、どうしたの。


「戻って来い」


ふうっと、眠りの気配が去っていった。ボクがちらっと上を見ると、染岡くんが振り返ったところだった。急に、眠たくなくなってしまった。


「うん、戻ってきた」

「それでいんだ」


再び前を向いて、さっきより力強くペダルを踏む染岡くんはやっぱり男らしくってかっこいいなあとボクは思うのでした。ひろびろとした背中にぴったりとほっぺをくっつけて、涙ぐんでるボクは一体なんなんだろう。そうだ、吹雪士郎なんだったっけ。ねえ染岡くん、キミが名前を呼んでくれるんなら、ボクは何度でも戻ってこれる気がするし、戻ってこようと思うんだよボクは。言っててだんだん恥ずかしくなってきたので、これは染岡くんが聞いてなくてもむしろいいと思った。でも染岡くんはこういうときに限って、おう、と返事するんだよなあ。