・源田×不動




















最近、なんかよくわからんけど源田がのら猫を可愛がってる。こげ茶とちょっとの白の毛色を持ってる、死ぬほど小さいにゃんころ。

源田が言うには、なついちゃった、らしい。うまれたて、らしい。こんな狭くて苦しくて汚い路地裏でこいつは生まれたのだろーか。

学校帰り、いつも源田はここに寄る。ので、オレも仕方なく寄る。にゃんころは、らしく、にゃあうと鳴いて、源田に寄ってったり、オレに寄って来たりする。源田がにゃんころをあのおっきい両手のひらで抱っこして、あうあうと鳴くそいつを胸元に抱き寄せているのを見ると、なんかこう、オレは発狂しそうだった。お前もだっこするかと源田が聞くので、誰がんな汚ねえもん触るかよ、と言うと、源田は困ったように笑った。大体、あんなちみっこくてやわらかそうな生き物は、多分オレが普通に持っただけでぶしゅっとつぶれちまうんじゃないかなと思う。源田はよくもまああんなの上手くだっこできる。オレには出来ない。絶対に。

にゃんころは、源田にごはんをもらって、源田にだっこしてもらって、源田に茶色と白のふわふわの毛を撫でてもらって、源田の腕の中でぐっすり眠っていた。源田はその間もずっと、にゃんころのせまい額を優しく優しくぐるぐる撫でていて、なんかこう、オレは泣きたい気持ちになったので泣いた。源田がどうしたどうしたと言って心配してくれたけど、源田の腕の中にはあの毛玉がずうっとあったのでオレの気持ちはいっこうに治まらない。





ある日、ひどい雨が降ったので、源田はあのにゃんころを自分の家に連れて帰りやがった。放っとけば良いのに。そうはいかないんだ、と源田は笑った。

そしてだから、いまオレは、いまいましーにゃんころとふたりっきり、源田の家のリビングにいる。源田はずぶ濡れになっちまった服の替えを取りに行っていていない。にゃんころは床の上に鎮座して、短いしっぽをたゆんと揺らしながらオレを見上げている。青黒いビー玉の目。ああ、うざったい。


「おいてめえ」


オレがしゃがみこんでガンとばしても、にゃんころは少しも臆することなく、おすわりしていた。


「にゃあ」

「てめえなんて殺してやりたいんだ」

「あぁう、おぉう」

「でもあいつが」


源田のバカヤロが。おまえ死んだらあいつ泣くから。


「いつでもてめえなんて殺せるってことを忘れんなよ」


きゅっと首をつまんでやるつもりでにゃんころののどもとに触れたたら、お門違いにも程がある、にゃんころはごろごろと鳴く。いよいよオレがぶち切れそうになったところで、タイミングのいい源田が戻ってきた。

オレを見るなり、おっ、と、嬉しそうに声を上げやがる。なんでだ。


「なぁ、触ってみると、可愛いだろ。あったかいだろ」


源田よ、おまえはつくづく鈍くて空気読めなくて頭の悪いやつだよなあ。おまえのそういうとこがさ、オレ大好きなんだわ。アハハ。死ね。





しかしその日、雨の功名で源田んちにお泊りすることになったオレは、源田にごはんをつくってもらって、源田にだっこしてもらって、源田に髪の毛を撫でてもらって、源田の腕の中でぐっすり眠ることができた。ので、機嫌が治った。オレと源田がぬくぬくしているベッドの傍ら、冷たい床でおすわりしてこっちをじいと見ているにゃんころ。は、ざまあ。自分の立場ってもんを、よく覚えときな。