目を開けてキミの顔を見る。
真っ赤になって涙をぽろぽろと流しているキミが


「なんだよ」


と、切れ切れの掠れた声で言って、わたしは何も答えずにキミの白いへそをなめた。
キミが、


「あっ」


と、声を漏らして、掴んでいたシーツにさらに皺を寄せる。
そうしてわたしは次々とキミの体の色々なところに触れては、なめたり、噛んだりして、一々にキミの表情をうかがう。
ひとつひとつ所作を重ねるごとに、比例してキミの吐息は切なげに甘ったるくなる。



いつからだろうか。
わたしたちが、目が合えばこうして抱き合うようになったのは。
しかしわたしたちは好敵手どうしであって、それ以下やそれ以上の関係になるはずもない。
時折こうして、比喩でなく体を繋げていても、それは変わらないはずだと。思っていた。

はずだった。



キミが、


「あ、あ、」


と、普段は絶対に聞かれないような高い声を出す度に、わたしは、なんとも言えない不思議な心持ちになるようになった。

それはどうにも名称の見繕えない不可思議な気分なのだった。
キミが、快感のあまりに堪え切れず大きく鳴き声をあげるときだとか、どんどん赤くなるほっぺたとその熱さだとか、弱々しくわたしの首に回される細い腕、何よりも、熱に浮かされたような声でわたしの名を呼ぶその仕草に、沸き上がる感覚だ。
これは、嬉しいのとも、興奮するのとも、恐らく違う。
強いて言うならば少し悲しいのと似ている。
キミとこうしているときに悲しいだなんて、一体どういうことだとも思ったが、やはり悲しいのとも似て非なるものだから、考えるべきはそこじゃない。
この心地は、言うなれば、こう。みぞおちのあたりがぽかぽかとして、なんだか体中がふわふわと綿になったように軽やかで柔らかで、力が抜けていくかんじ。あと少しだけ泣きたくなるような、でもその涙はきっとあたたかいのだ。そんな気分。



この気持ちは何だろう。



「…ばっかじゃねえの、あんた」


事を終えてぐったりとしていたキミに、わたしの疑問を既述のとおりに告げれば、キミはまだ赤いままの顔をもっと赤くして、わたしの胸に鼻先をうずめるように顔を隠した。
むき出しの白い肩にシーツを掛けながら、少し汗のにおいのするその体を抱きしめると、ほらまた、こんなわけの解らない気持ちになる。

やけにぽかぽかする。
悪くはない、が。


「わからないんだ、教えろ、南雲」

「こんな気持ちは初めてだ」

「なんだか大事にしたいんだ」


キミを。

返事はなかった。
しかしそのかわりに、真っ赤なくせ毛が先よりも力強く擦り寄ってきたので、案外どうでもよくなった。
わたしも随分適当になったものである。
しばらく経って、動かないキミはもう眠ったものだと思い、わたしもうとうとしかけていたころ、不意にくぐもった声が聞こえてきた。


「オレも、あんたといると、そういう気持ちになる」


こともある、と小さな声で続いたと思ったら、キミはいきなり、ガバッと顔を上げた。
濡れた金色の瞳に、不覚にもどきりとする。
キミは、怒りとも照れともつかない微妙な、それでいてやはりわたしをあたたかくさせる表情で、叫ぶように言う。


「嫌いじゃねえ、ってことだ!」


それきりキミは反対側に寝返りして、まるっとシーツにくるまってしまう。
わたしはどうにもどきどきしてやまない心臓をかかえながら、キミが今一体どんな顔をしているのか知りたくてたまらないという衝動にかられた。
が、手を伸ばすその前に、自分の意志に反して口をついて出た言葉がひとつ、








「これが恋か」