彼、南雲晴矢は薄着を信条としているのか、いつだって一皮剥けばその真っ白い肌を拝める。今日だって、風呂上がりの彼は無防備にも黒いティシャツと薄緑色の短パン(ショートパンツと云うに足りるようなそれ)のみを纏ってベッドの上に転がっていた。それを苦も無く発見したわたしは、だから遠慮なくその薄皮を剥いてやった。彼は二言ほど抗議の言葉を叫んだが、終いにはただの食べ物に成り果てた。マウントポジションを崩さぬわたしの下で、もうどうにでもしてくれと言いたげな諦めの吐息。ささやかな期待をはらんだ目の色と。薄皮をすべて取り払った下層に有る身、白い白い身は何ともまばゆく、生唾を誘う。わたしはわたしの後ろ暗い瞳孔が浅ましく開くのを予想する。欲求が満たされることを期待している。

その一。ひた、みぞおちに手の平をそっと当ててやる。彼はぴくりと眉と肩を揺らして、ツメテェ、とこぼした。唇を尖らせている。微笑ましいことよとわたしは笑みを零し、そのまま口づけた。彼は拒まない。いとも簡単に薄い唇はわたしをゆるして、ちる、と可愛らしい音を立てた。味はしない。ゆっくり味わう。

その二。輪郭がおぼろげになり始めた彼の虹彩の金色を認めながら、そっと唇を離す。平らな腹に当てっぱなしだった手のひらを滑らし、上から下へ撫でた。そこが強ばるのを触覚で感じ取った。緊張しているのだな、と思った。かたいままではあまりおいしくないのだろうな、とも。

その三。彼の、棒のような脚の間に入り込んで身をかがめ、ちんまりとしたへそのくぼみに舌先を押し込む。彼が息を呑むのが、肌の粟立つ感じから伝わってきた。これはこれは、肌の味がする。わたしは、犬もかくやといった風に、あまり格好良くは無いていで彼の腹を舐め回した。彼が、あっ、と言う間に、彼の腹はなめくじでも這い回ったかのような有様になってしまう。彼はひくひくと気色有り気に腰を震わしている。物欲しそうな目をしている。わたしは一息ついて、べとべとする口の周りを自らぺろりと舐めた。彼がこくんと唾を呑みこむのが見えた。聞こえた。

その四。かまわず、唾液にまみれた彼の腹を指先でなぞる。なぞっていく。彼は非常にもどかしそうにして、宙を見てやりすごしていた。わたしはというと、泣きそうな彼を尻目に、指先の触れるもう一皮の向こうにある物について思いをはせていた。彼の中身について。

(これはいつだって彼の身体を前にすると思うことなのだが、わたしは彼の中身を直接見てみたい。色とりどりの、それこそ宝石のようなものがぎっしりと詰まって並んでいるのだろうなあ。やわらかいとは言い難い腹に頬を当てながらうっとりしてしまう。わたしは、もし彼のこの中身を手に取ることができたなら、そのひとつひとつを良く愛でたいと思う。ひとつひとつを手に取って眺め、愛撫し、味わい、大切に飾って置いても楽しい気がする。ああ。無駄な脂肪の一切隔てぬそこをぐりぐりと指でいじめながらそういうことをいつも思うのだが、そんなことは、じれったそうに息をつく彼には思い及びもしないんだろう。そんなわたしの切望になど。しかし、まぁ、この腹をかっさばいてそれらをすくいあげればきっと、いや確実に彼は死んでしまう。ので、わたしはそれをしない。賢明だ。彼が生きなければ中身はいずれ腐る。仕方のないこと。それに、(彼の中身を内包する)その凛々しい顔やきめ細かい肌の造りのこれらも、上等な宝石箱と思えばあるいは…)

その五。早く…、と急かす彼のことを憎からず思ったりもするので、とりあえずはこの、満たされないどうしようもない、なかなかに趣深い感を味わうこととする。