・ガゼルとバーン 青黒く、すっかり夜と化した廊下を、オレは歩いていた。窓からは黒々と樹海の波が見える。近頃めっきり寒くなって、肩がこわばってしまう。さっさと用を足して、ぬくい布団に戻りたい。オレは黙々と足を進めた。 と、進む先、廊下の奥に何かが転がっているのに気が付いて、足が止まる。 窓からの月明かりの、四角い薄明るいスポットライトの真ん中に、ぽつねんとなにかが。なんだろう、怖えー。なにせいまは夜中の三時。 恐る恐る近づいて、その物体を視察する。するとなんてことはない、ただのガゼルだった。どうやら寝転がっている形状の。 オレは内心ホッとして、溜め息をついた。いや、でもオレ、ゆうれいとか信じてないから。別に。ちょっと不審でこわかっただけ。 沈殿するような暗闇が敷かれた廊下に、月明かりを一身に浴びて、ガゼルは居た。長く続く廊下のドっ真ん中で、胎児の様に身を丸めて。目は閉じてるようだが、息は……息はしてる。してた。なんだ、驚かせやがって。 それにしても、こんなとこで御就寝とは良い御身分である。しかしまぁ何ンでユニフォーム着たまんまなんだか。青いユニフォームの青い部分が夜の色と似ていて、溶け込んで、ガゼル本体のラインがわかりづらい。 放って置いてトイレに急ぐべきか迷った。迷ってやる必要なんかないのかもしれねぇけど。 佇んでしばらくして、オレは、とあることに気が付いた。 いまだ身動きひとつしないガゼル、の腕の中に、何かが抱えられていることに。 何かは、ぼーる、だった。黒と白の、五角形と六角形の模様で、それとわかった。さっかーぼーる、だ。 それはそれは、大事そうに抱えている。のだった。 なにしてんだコイツ… オレは思わず呟いた。すると、 まもっているんだ 図らずも答えは返ってきた。眠ってはいなかったらしい。しっかりした声で、でもやはり身動きひとつせずに。 なにをだよ 今度ははっきり意思を持って、オレは問うた。 わたしのせかいを やべぇこいつやべぇ電波じゃねぇかぁぁあもぉおお付き合ってらんねーーーって思った。 ………けど、夜闇の中で、ガゼルの腕の中に大切にくるまれているまぁるいさっかーぼーるは、確かに似てなくもない。宇宙にぽっかりと浮かぶあれに似ているのだ。あおいあおいあの星によく似て。 わたしたちのせかいさ |