ちまちまと小さな足取りで後ろをついてくる幼い女の子は、妙に大人びているけれど素直で可愛かった。兄や姉も、こんな気持ちで幼い自分を見ていたのだろうか。ほんの数日傍にいただけなのにまるで妹ができたようだった。無条件に信頼されているというのは何だかくすぐったい。

「最終日ですし、俺に夕飯を作らせてもらえませんか?」

 既に千木良から事情を聞いていたらしい風羽の祖父は、広瀬の「用事」に関しては一切口出しをせず、時折広瀬から離れたがらない風羽を優しく咎める程度だった。広瀬も広瀬で、千木良に呼び出されたときはさすがに風羽を連れて行くわけにもいかなかったから、彼女の祖父がタイミングを見計らって風羽を引き留めてくれたのはありがたかった。

 そんなに気にしなくても構わない、と返されたが、

「お世話になったお礼がしたいんです。何も聞かないでくれたことも感謝しています。それに、お孫さんのことも。一緒にいられてとても楽しかったですから」

 そう告げると、風羽の祖父はいつもは動かない無表情を少し緩ませた。やはり、大切なたった一人の孫娘には、厳格で頼りがいある山守も形無しらしい。

 良ければ風羽も買い物に連れて行ってほしい、と言われて彼女の自室に向かうと、風羽は机に座って何やら勉強中だった。邪魔したら悪いかな、と踵を返そうとしたが、その前に「優希くんですか?」と声をかけられる。気配に聡い子だ。

「風羽ちゃん、買い物に行くけど付いて来る?」
「……行きます!」

 風羽は机の上に夏休みの宿題を広げたまま、ばたばたと出かける支度を始める。「玄関で待ってるよ」と声をかければ、「分かりました」と返ってきた。

 玄関までやってきた風羽は、薄手の上着を羽織り、小さなポシェットを肩からかけていた。明るい色のサンダルをひっかけて、急いで広瀬の隣に並ぶ。サンダルのストラップを慌てて止める姿を見て思わず頬が緩んだ。

「今日は俺が夕飯作るけど、何か食べたいものある?」
「お肉が良いです」
「すっごい簡潔だね……」
「優希くんは料理がとくいなのですか?」
「得意、とまでは行かないかな。作れるってレベル。肉、肉か……。ハンバーグとかどう?」
「ハンバーグ!」
「好きなんだね。じゃあ作るよ」
「是非お願いします」
「お祖父さんは和食派なんだよね。じゃあ和風ハンバーグにするかな」
「楽しみです」

 風羽があまりにも幸せそうな顔をするものだから、広瀬も思わず笑みを零す。自分が世話焼きな性質だとは思わないが、こうして嬉しそうな顔が見られるなら、上の立場というのも悪くない。