※アフター夏ほんのりネタバレ



 後ろから抱えられたまま、月子は旅行雑誌のページをめくっている。しかし月子は眠そうに目をこすりながら、たびたびこっくりこっくりと船を漕いでいた。

「月子ー、眠いなら寝るか?」
「うーん、でもプランくらいは目星つけたいよ……」
「眠い時にやっても効率悪いだろ? 明日ゆっくりやりゃあ良いじゃん」
「そうかもしれないけどー……」

 舌っ足らずで甘えた口調の月子から雑誌を取り上げて、犬飼はシュシュで緩く纏められた月子の髪を解き、手櫛で軽く整えてやる。とろんとした目の月子は心地良さそうにくすくす笑うと、くるりと向き直って犬飼に抱きついてくる。

「お前はだっこちゃんか」
「ふふ、良いね、だっこちゃん」
「ベッド行くか?」
「お姫さまだっこしてくれる?」
「バーカ、しねえよ。ほれ立て。弓道やめてから運動してないただのサラリーマンが、オヒメサマ抱っこなんて出来るか」
「ちぇ。ねえ、隆文」
「何だよ」
「今日はする?」
「……お前、眠いんじゃなかったのかよ」
「うーん、眠いけど、ちょっとはしたいなあって思う。明日お休みだし」
「まあ、最近やってねえしな。新婚でセックスレスは良くない」
「ふふ、そうだね。私も健康なうちに子供生みたいし」
「……なんかさあ」
「なあに?」
「いいや、何でもね」

 立ち上がって手を引くと、月子は甘えるように腕を組んでくる。そう、いつの間にかこんな仕草が当たり前になっていった。付き合いだした頃は手を差し出すことすら恥ずかしかったと言うのに。

 したいとか、子供とか、セックスとか。多分出会った頃の彼女と自分なら、けして口にしないであろう言葉が容易に飛び交う。これが時間の流れで起きる変化で、関係の進化なのだろう。言葉にし難い感慨を感じる。

「そうだな、俺も旦那として頑張るわ」
「ふふ、私も頑張ります」

 慣れた仕草でベッドに月子を押し倒し、眼鏡をベッドサイドのチェストに置く。とりあえず二人は欲しいかもな、と呟くと、月子は笑ってそうだねと言った。