「……おお」

 風羽はぱちぱちと瞬きながら、自分の目の前にある端正な顔を見つめる。今日は広瀬よりも早く目が覚めた。じっと顔を見てから、一度目を閉じる。

(不思議な夢だった)

 同じ場所で、全く違う自分がいた。それから見知らぬ少年がいた。広瀬の様子も少し違った。風羽は記憶を辿ってみるものの、やはり夢に出て来た彼を風羽は知らない。

 快活な笑い方をする、さっぱりとした少年だった。夢の内容でここまではっきりと覚えているならば、モデルとなりそうな人物がいてもおかしくない。

「ん、あれ……菅野さん」
「はい。おはようございます」
「……あー、良かった……」

 寝ぼけ眼で力いっぱい抱き締められて、風羽は嬉しく思いながらも戸惑いを隠せない。広瀬はぎゅうぎゅう風羽を抱き締めながら、頬を風羽の頭に擦り付けて安堵の息を吐いた。

「何が良かったのですか?」
「岡崎に取られたら一生立ち直れない……良かったあいつが月宿にいなくて……」
「?」

 首を傾げる風羽に対して、まだ寝ぼけているらしい広瀬は、ああ良かった本当に良かったと繰り返しながら風羽を抱く腕に力をこめる。

「岡崎……」
「うん、そう。あー本っ当に良かった……」
「もしや岡崎千真くんとおっしゃるのでは?」
「は!?」

 広瀬はがばりと顔を上げ、風羽の肩をがしりと掴む。どうやら寝起きのせいでまだ混乱状態のようだ。

「えっ待って、え? 何で君が岡崎のこと知って、え?」
「夢でお会いした方に、そのようなお名前の方がいらっしゃいました」
「夢……。え、何これ土地見……? いやまさか、岡崎だし……」
「広瀬くんのお知り合いなのですか?」
「あー、うん。小中と一緒だった友達」

 最近会ってないけど元気にしてるのかな、と広瀬が呟いたと同時に、机の上の携帯が振動した。目覚ましだろうか、と体を起こしかけると、振動はすぐに止んでしまう。どうやらメールのようだ。

「メールかな」
「見なくて良いのですか?」
「良いよ。日曜の朝に送ってくるメールなんて」
「ふむ、そういうものなのですか」
「うん。……あ、そうだ」
「何でしょう」
「この前言ってたやつ、する?」
「? 何でしょう」
「お目覚めのキス」
「……」
「嫌なら良いよ」
「……しましょう」
「うん。おはよ、菅野さん」
「おはようございます、ひろせく」

 ん、と最後の一文字を飲み込むようにキスをされて、風羽は咎めるように広瀬のパジャマの袖を掴んだ。


日曜日症候群


 日曜日を言い訳に散々イチャイチャした後、ようやくメールを確認した広瀬は、思わずあんぐりと口を開けた。


『よっ久し振り。元気にしてるか?

ところで今日、部活の練習試合で月宿高校に来てるんだけど、お前確か月宿で、寮住まいだったよな?

久々に会おうぜ!


岡崎』