不運だな、と溜め息を吐く。肩にかかる買い物袋の重さにうんざりしながら、広瀬はどんよりと曇った空を見上げた。降り続ける雨の音が聴覚を覆う。

 じゃんけんに負けて買い物に来たものの、帰りに降られてしまうとは思わなかった。学校指定の鞄には折り畳み傘を入れているのに、と後悔しても、休日にまでわざわざそんなものを持ち歩くほど広瀬はまめな性質でもない。

 携帯電話を開くと、これまた不運にも電池切れだった。傘を買おうにもにわか雨のせいでとっくに売り切れだ。八方塞がりの広瀬は、ただ黙ってスーパーの店先で雨宿りをしている。

「広瀬くん」

 雨音を切り裂くように、凛と整った声が広瀬を呼ぶ。

「菅野さん」
「やっぱり傘、持ってなかったんだね」

 風羽が駆けるせいで、足元の水溜まりがパシャパシャとはじけていく。

「迎えに来たよ」

 少しだけ傘を傾けて風羽が微笑む。全くもって男の立場がない、スマートな振る舞いだ。

「あのさ、菅野さん」
「何?」
「迎えに来るんだったら、傘二本持ってくるべきなんじゃないの?」

 風羽は一本の傘以外何も持っていない。彼女はきょとんと首を傾げる。

「ああ、広瀬くんの傘が分からなかったから」
「……そう」

 淡白な返しに溜め息を吐きながら、「じゃあお邪魔して」と彼女の差す傘の中に潜り込む。


土曜日は傘を差して


 すぐ近くに彼女の顔がある。けれどこれくらいの距離ならもう抵抗も無い。彼女の領域侵犯は深刻で、広瀬は厄介な恋心を抑えるのに精一杯だ。