朝起き上がると、談話室からテレビの音が聞こえた。

「岡崎?」
「んあ? 広瀬か、おはよ」
「おはよう。珍しいね、岡崎が早起きなんて」
「まあなー。ふわああ……」

 りんごがまるまる一つ入ってしまいそうなほど、大口を開けて岡崎はあくびをする。その向かい側に広瀬は腰掛けて、彼と同じようにテレビを眺めた。皆を起こさない為だろうか、テレビのボリュームは控えめで、大雑把な岡崎らしくないな、と広瀬は思う。

「あのさ、広瀬」
「何、岡崎」
「お前さ。菅野のこと好きだろ」

 あまりに唐突な問い掛けに、広瀬は動きを止める。岡崎はこちらを見ることなく、テーブルに片腕をかけて頬杖をつき、テレビを眺めていた。

「それは、岡崎の方なんじゃないの?」
「悪い、言い方間違えたな。お前も、菅野のこと好きだろ」

 わざわざ言い直さなくてもいいのに、素直な岡崎はあっさりと自分の思いを明かす。その明け透けな態度を、広瀬は羨ましく思う。

「……岡崎が相手じゃ、適う気がしない」

 遠回しで後ろ向きな肯定しかできない自分が嫌になる。岡崎や風羽のような素直さがあれば、ここで彼に向き合うことができただろうか。

「はあ!? それはこっちの台詞だろ!」

 バン、と机を叩く岡崎に驚いて、広瀬はびくりと肩を竦ませる。思わず岡崎の方を見ると、彼は苦悩するように頭を抱えていた。

「だってさ、お前と菅野、すげえ仲良いじゃん! あいつしょっちゅうお前の話するし、褒めるし、俺もお前の良いとこいっぱい知ってるから適わねえって思うし!」
「な、そ、それこそこっちの台詞だよ! 菅野さん、しょっちゅうお前の話するんだよ!? それに岡崎は俺の性格悪いところ知っても、普通に接するし……、ああもう何でだよ! 普通なんかもうちょっとリアクションあるだろ! 嫌うとか!」
「何で嫌うんだよ! 別にねえよリアクションとか!」
「しろよ!!」
「大体性格悪いとかお前の勘違いだろ! お前アタマ良いし、すっげえさりげなく気遣いできるし! 俺には出来ん!」
「岡崎だって明るいし、友達多いし! 俺みたいに自分を作らないでも、人に好かれるじゃないか! そういうの、誰でも持ってるものじゃない!」
「広瀬は俺のこと褒めすぎだろ! 買い被りすぎだろ! 何か恥ずかしいじゃねえか!」
「岡崎だってそうじゃないか!」
「……お前らうっせえよ……」
「うわ!」
「は、葉村!?」

 寝ぼけ眼でこちらを睨む葉村を見て、広瀬と岡崎は大きく仰け反る。

「今の話聞いてた……?」
「ぎゃあぎゃあうるせえことしか分かんなかった……」

 「顔洗ってくる」と言い残して、葉村はのろのろと戻っていった。

「広瀬……」
「岡崎……」
「あのさ、俺思うんだけど」
「何?」
「お前と菅野がくっつくなら許す。でも、そう易々と諦められない」
「……俺も」
「正々堂々、恨みっこなしな」
「そうだね」


夜明けに微睡む水曜日


「おはよう、岡崎くん、広瀬くん」
「おはよ、菅野」
「おはよう、菅野さん」
「……? 二人とも、何か良いことあったの?」
「まあな」
「まあね」