「そこ間違ってる」 トン、とシャープペンシルの先が、風羽のノートを指差す。風羽が顔を上げると、不機嫌そうな顔で頬杖をつく広瀬がいた。 「……どこが間違ってるんだろう」 「ここ、計算ミスしてるよ」 広瀬のお気に入りらしいシャープペンシルが、風羽の計算式の途中に小さなペケをつける。 「本当だ」 「やり直し。明日の追試、落ちたらどうするの?」 「ごめん」 「謝らなくていいから、やり直しなよ」 シャープペンシルをそっと上げてから、広瀬はぷいとそっぽを向いた。ぼんやりと窓の外を見つめる広瀬は、どことなくとげとげしい。苛々しているのが空気を伝わってくるようだった。 追試の勉強を見てほしい、と頼んだとき、彼は少し困った顔をしたけれど、じゃあ部屋に来て、とだけ言った。広瀬の部屋はものが少なく、すっきりと片付いていた。 「解けた」 「うん、正解」 風羽の解答に目を通すと、広瀬はほんの少しだけ微笑む。ふ、と力が抜けたような、優しい笑い方だった。 「笑った」 「え?」 「そういう笑い方する広瀬くん、良いと思う。私は好きだよ」 「……」 広瀬は笑顔を引っ込めて、また不機嫌そうに眉を寄せた。しかし今度は落ち着きなく、右に左に目を泳がせている。 「広瀬くん、顔赤い?」 「っ赤くない!」 アンニュイな火曜日に 「バカみたいなこと言ってると、もう教えてあげないよ!」 「ふふ、ごめん」 「……菅野さん、むかつく」 |