広瀬には味方が一人もいなかったし、もはや孤軍奮闘と言っても過言ではなかった。

 けれど、今は少し違う。

「まあ、上手くいったんなら良かったんじゃねえの」
 葉村は呆れながらも照れくさそうにそう言うし、

「広瀬くん、良かったね! 菅野さんも幸せそうだし、良かったあ」
 空閑は終始にこにこ笑っていて、広瀬を責めることは一度も無かった。

「今度こそスガちゃんを幸せにしなきゃ、俺が奪っちゃうからね!」
 法月は冗談っぽい口調で、二人を見守るようにそう言うし、

「いやあ、青春だよな。仲良きことは美しきかな」
 米原はそんなことを言って広瀬を茶化し、

「おお、良かったじゃねえか!」
 戸神に至っては事情もまるで理解しないままに二人を祝福する。

「そっか、おめでと! まあ風羽ちゃんが幸せなら、私はそれで良いよ」
 川奈はやや呆れながらも広瀬の肩を叩き、

「菅野さんと両思いなんて死ねばいいのに」
 兼子は状況が変わっても、敵意剥き出しの嫌みしか言わない。

 そして当事者の片方である彼女はと言うと、

「皆さんが祝福してくださって嬉しいですね」

 風羽はただ素直に喜んでいる。大物だな、と広瀬は思う。

 かつて広瀬には味方がいなかった。それは孤軍奮闘と言っても過言ではなかった。しかしこうして少しだけ気持ちを入れ替えると、広瀬の周りには、多少ひねくれてはいるもののたくさんの味方がいたのだと気付くことができる。

「うん、本当にそうだね」

 風羽の言葉に頷いて、広瀬は彼女と手を繋ぐ。そうしていられることが嬉しくて、幸せだった。