※神崎夏姫さんリクエスト「千木良×風羽/真相後でいちゃいちゃ」


 どこにも姿が見えないから、探しに行くことにした。放送室、保健室、屋上、正門の木の上。最後に資料室。放送部のない放課後はかくれんぼの鬼になった気分だった。

「見つけました」
「遅いわ」
「昨日が資料室でしたので、今日は別の場所かと」
「そういうブラフや」
「なる程」

 ふあ、と大きく欠伸をしながら、千木良はちょいちょいと手招きする。風羽が資料室の扉を閉めれば、「鍵掛けとき」と声がかかる。言われた通りに鍵を掛けてから、千木良のそばまで近づくと、彼は軽く自分の膝の上を叩いた。

「座り」

 風羽は「鍵掛けとき」という言葉の意味を理解して、その上で自分の羞恥心と話し合いをした結果、彼が腰掛けるソファの隅っこにちょこんと座った。

「何でそこに座るん」
「いえ、子供ではありませんので、膝の上はどうかと思いまして」
「子供やないから言うとるんやろ」

 欠伸に代わって出たため息と共に、千木良は風羽に手を伸ばす。

「おいで、風羽」

 子供ではないと言いながら、子供に言い聞かせるような柔らかい声だった。命令系ではない、普段の関西弁でもない、相手の意志に任せているくせにそばに寄ることを強制するその台詞に、風羽は何やらむずがゆさを感じた。二人きりのときに千木良が表す、こうした甘やかな恋人の気配に、風羽はまだ慣れることが出来ない。

 風羽が動けないでいると、千木良は強く腕を引いた。油断していた風羽はそのまま千木良の方に倒れ込む。ソファの上に横になった千木良の上に風羽が重なって、どくり、どくり、と千木良の心音が服越しにダイレクトに伝わってきた。

「俺は眠いねん。抱き枕になっとき」
「先輩、放課後です」
「だから何や」
「帰らなければいけません」
「別に急がんでええやろ」
「それはそうですが」
「風羽」

 半身を起こした千木良は風羽を抱えなおすと、千木良を見つめてくる目を親指でそっと押さえつける。すり、と指の腹で目じりを撫でられて、風羽はくすぐったさに目を閉じた。口づけられたのはすぐ後のことだった。

「せんぱ、」
「そんなに早う帰りたいか?」
「……いえ」
「俺とおる方が大事やろ」
「……はい」
「なら大人しくしとき」
「はい」

 千木良は風羽を宥めるようにもう一度、ふれるだけのキスをした。起こしていた半身を再び倒すと、ぽん、ぽん、と風羽の背を叩く。体の芯を優しく揺らす音に耳を傾けていると、こちらまで眠くなってくる。

「眠いか?」
「少し」
「寝てもええで」
「はい……」
「おやすみ、風羽」

 頭をそっと撫でられて、風羽は目を閉じた。空いた手で千木良の服の袖をつかむと、千木良はすぐに意図を察して風羽の手を取った。

 甘やかされている、と思う。彼は以前「自分に出来る範囲で大事にする」と言ったが、その「範囲」は風羽の想定以上に広かった。

(心臓が持たない)

 わざとらしさや無理の無い彼の動作のひとつひとつが、風羽のねっこの部分を優しく包んで満たしてくれる。

「おやすみなさい、千木良先輩。……大好きです」

 満たされた気持ちを伝えるための言葉はあまりにも滑らかに口から出て行った。しばらくの沈黙の後、彼は風羽の手を握る力を少しだけ強くして、こう言った。

「知っとるわ」