「久しぶりだねえ」
「はい、約束通り鍛錬を終え、月宿に参りました」
「そうかい。……あの時から気持ちは変わらないかい?」
「はい、少しも」
「そいつは良かったよ。じゃあ、暫く協力してもらうよ」
「はい」




 新任式の後、広瀬は十九波を探していた。あれから抱きついてきた風羽を何とか宥めすかして引き剥がして、風羽の行動に目を丸くしたり頬を赤らめていた新入生を適当にごまかして、入学式の時間が迫っていたから体育館まで送ってやり、自身も新任式を終えてほっとしたのも束の間、何故彼女が自分のことを覚えているのか、という疑問に思考を捕らわれてしまったため、手っ取り早く十九波に尋ねることにしたのだ。

 とは言え、十九波が常に月宿にいるという訳ではない。一通り探して見つからなければ、一旦諦める方が良いだろう。それに、風羽とも話す必要がある。一応幼なじみと言うような関係ではあるが、校内でもそういった接し方をされては困るし、広瀬の「しなければいけないこと」に支障を来してしまうかもしれない。

『ぴんぽんぱんぴーん』

 思考を中断させる気の抜けた校内放送は、米原によるものだった。広瀬は呆れながら耳を澄ませる。

『えー、入学式早々不吉なことに、学生寮の水道管が破裂しました』

「……」

『寮生にはクラスで追って連絡します。教師陣は緊急で職員会議をするので速やかに職員室に集合してください。以上!』

 どうやら十九波は月宿にいるらしい。それにしても。

「何も、また水道管破裂させなくてもいいのに……」

 しかし、かつての広瀬達と同じように、ここの生徒が浄化活動を行うのなら、広瀬には好都合だった。広瀬は職員室へ足を向ける。面倒事が重なって起きている気もしたが、気のせいだと思い込むことにした。