館論破

第6章『二重奏』

館論破
6章
『二重奏』


「『一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ』。
ねえ、君たちはどっちを選ぶの?」



『私は……』



地図が公開されました。[ 7階 ]




6人が食堂に集まる。


「大丈夫?」


と声をかけてきたのは鈎さんだ。


「ええ、まあ」
「悲しんでいいんだよ。……生き残ったほうがつらい時もあるから」
「……そうですね」
「全員集まりましたね」


篠芽さんが見渡す。ユリウスとミカエルはいない。


「今生き残っているのはここにいる6人だけです。これからはコロシアイじゃない、別の方法で外に出る方法を探るべきだと思います」
「そうは言っても、外の様子が分からないんじゃぁねぇ?」
「そうですわ、外に出たって安全とは限りませんし……」
「ていうかそもそも、いつまで経っても夜が明けないのがおかしいだろ」


豊島さんと橘さんと旋さんの意見に篠芽さんは「そうですね」と肯定をかえした。


「外の様子が分からない以上は、どうしようもできないんじゃないかな」
「そうでもありませんよ、湊くん」


どうやら、篠芽さんには気づいたことがあるらしい。


「みなさんは、このコロシアイが始まる前日、この館に来る前までのことを覚えていますか?」


全員が「ええ」「まあ」と答える。


「僕もそうです。でも、どうしても思い出せないんです。どうしてこの館に来たのか」
「それは……招待状が送られて来たから。でもそれ以外の理由となると……」


鈎さんは口元に指をあてた。思い出せないようだ。


「ええ、僕たちは招待されたから来たんです。でも、僕たちは全員、ここで初めて知り合ったんです。もちろん、梅浩くんと松尋くんは除きますけど」


篠芽さんは前を見据えた。


「知らない人から、パーティーに招待されたって普通は行きませんよね。でも、僕たちは来ている。なぜ?」

「……」


誰も答えられなかった。というより、過去のことを思い出そうとしても、どこか、何かが抜け落ちているのだ。


「なあ、お前なら何か覚えているんじゃないか?誰よりも先にこの館に来たお前なら」


旋さんは私に声をかけた。記憶をたどっていく。



「昨日のパーティーは……」






私が館に誰よりも早く来たのは、腕時計が故障していたからだ。

予定よりずいぶん早くに来てしまった私を、館の主人は快く受け入れた。
その時はまだ宴の準備が終わっていなかったので、館の主人と多数の使用人たちがまだ仕事をしていた。
私は準備を手伝いを申し出た。

なぜなら、この会は……。



「……親睦会、だったから」



全員が思い出した。そうだ、私たちは親睦会に呼ばれたのだ。


「他に何かわかりますか?」
「いや、何も……」
「でも、親睦会がコロシアイになるなんて。楽しいことは永遠には続かないね」


鈎さんが軽く自嘲している間、篠芽さんが小さくつぶやいた。


「…親睦会に招待されて初めて出会った?いや、初めて出会うからから、僕たちは親睦会に招待されたのか?」





【???】
自分から殺してくれと頼んだ。
他の人より、自分が死んだほうがずっといいに決まっていると言ったら怒られて、笑ってしまった。
せめて罪悪感を感じてほしくなかった、でも逆効果だったかもしれない。
ごめんね、本当は生きてほしかったんだけど。
きっとまた、僕は大切な人を殺してしまう。




「あははは!また死んだね!こんな時に人殺しする人間がいるなんて、ねえ?」


ミカエルがくすくす笑ってファイルを差し出してくる。旋さんは睨みながらそのファイルを受け取った。



【願い】
大切な人が死んでいった。
友達や家族の屍の上に僕は生きている。
これ以上誰かを殺したくなんかなかったから、一人で生きていくことにしたのに、気づいたらまた大切な友人ができてしまった。
どうして僕だけが生き残ってしまうのだろうか。
僕なんて、生まれてこなければよかったのに。

【6章シロ】
超高校級の悪運 鈎湊

【願い】
自分の才能の抹消





「ミカエルに言われたんだよ。もし俺が人を殺せたら、外の情報を渡すってさ。だから、協力してもらったんだ」



【???】
誰かを殺せるはずなんてなかった。
怖くてしょうがないのに、殺される側はちっとも怖くなさそうだった。
「ごめんね」って謝られて、でもそれはこっちのセリフで、こんなの、全部全部おかしいじゃないかって涙が出てきた。
そしてまた、彼は「ごめんね」って謝るのだ。

【願い】
いじめられて、比較されて、罵倒されて生きてきた。
逃げるように偽って、大好きな歌を動画で投稿した。
いつしか、『旋律音』は超高校級として認められるようになった。
でも、誰も『奏律音』を認めてはくれなかった。



【???】
「本当、おかしいよな。
周りの目ばっかり気にして、自分を偽って、障害を隠して、誰も俺を認めるはずなんてないのに」

「そうかな?旋律音も奏律音も、君であることに変わりはないと思うよ。
だから、そうやって自分を追い込まないで。
君は、君のままでいい」

「………… ありがとう」

「……泣かないでよ。
でも、そうだな、ずっと自分だけが大切な人に救われてばかりだったから、……こんなの初めてだ」



【6章クロ】
超高校級の歌い手 奏律音

【願い】
本当の自分が皆に認めらるようになりたい

[img]



「死ぬのは怖いけど、湊くんが俺を俺だって認めてくれたから、まあいっかなって俺は思う。
おかしいだろ?きっと俺たちの願いが叶ったんだ。

じゃあな。繋いで行けよ、俺たちの思いを」


旋さんが、いや奏さんがオシオキされる直前に、鍵を投げた。
豊島さんが鍵を掴む。



「行くわよ、もう時間がないわ」




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