館論破

第5章『子守歌』

館論破
5章
『子守歌』


「絶望的な状況の中で、人は救いを求めます。
神か天使か悪魔か人間かは関係ありません。
彼らはただ自分を救ってほしいだけなのですから。
ところで、彼らを救った人間は一体誰に救われるのでしょうね」



『構いませんよ、これで死ねるなら本望です』



地図が公開されました。[ 6階 ]



「火薬庫に、レコーディングスタジオ?ここの部屋は地図ばかりだし、こっちはボロボロだし……」


壱岐染さんは不思議そうな顔をしていた。


「どうかしたんですか?」


篠芽さんが聞くと「明らかに変だろ?」と答えた。


「これらの部屋は別になくったっていいじゃないか。誰かの才能の部屋だとしてもここにいた全員に当てはまらない。じゃあ一体この部屋は誰のための部屋なんだい?」


全員が顔を見合わせる。17人以外にも誰かがいるのかもしれない。しかし、その予想は予期せぬ方向で裏切られることとなる。
突然の放送が流れる、ユリウスのようだ。



「ここで、才能を偽って申告していたお客様がいらっしゃいましたので訂正をさせていただきます」



才能偽り。ざわめきが走る中、無情にも彼はその名を挙げた。



【訂正】
超高校級の漂流者 時駆バス太
超高校級の発破技士 李・山藤
超高校級の歌い手 奏律音
超高校級の悪運 鈎湊



放送が流れた後、耐えきれなくなったのだろうか、旋さんが走ってどこかに行ってしまった。


「ま、待ってください!」


橘さんが後を追いかける。私の手をとって。


「ちょっ、待ってください」
「さぁ!行きますわよ透様!」


橘さんのスピードは凄まじく、旋さんは早々に捕まってしまった。
とりあえず近くにあった図書室に入る。体力の限界で椅子に座った。
奏律音。そう、『奏』といえば、たしか音楽一家だった覚えがある。超高校級の合唱部に認定された人もそんな名字だった。


「…おかしいだろ?性同一性障害なんて。散々言われた。……俺だって、こんな『おかしい』自分が大嫌いだ」
「律音様…」


沈黙が続く。図書室の扉が開いた。
どうやら鈎さんのようだった。こちらに気づいていないらしい。


「湊く…」
「しっ!静かにしてくださいませ」


物陰から隠れて様子を見ると、鈎さんは懐からナイフを取り出した。

「なっ!」
「湊くん!!」
「み、湊様!?」


旋さんは本棚の物陰からすぐさま鈎さんの元へ駆け込んだので、私もとっさにナイフを取り上げ、橘さんが取り押さえた。
鈎さんに話を聞くと、ポツリポツリとたが話をしてくれた。


「僕がいると周りの人が死んでしまう。これ以上誰かを不幸にしたくない」


鈎さんは俯いた。


「きっとあの放送だって、僕が悪運だから、君の知られたくないことを晒してしまったんだ」
「ちがう」
「違くないよ、事実君は……」
「違う!俺が不幸だって、その理由を勝手に君自身のせいにするな!」


旋さんは部屋を出て行ってしまった。その姿を鈎さんはぽかんと見つめていた。


「湊様、どうか自殺はやめてくださいませ。……これ以上誰かが死んでいく姿は見たくありません」


橘さんが鈎さんにそう伝える中、私はそっと取り上げたナイフを隠し持っていた。





〈弥宵side〉

湊様を落ち着かせるべく食堂に行こうとしたところで、ちょうど美乃麗様に出会った。


「どうかしたんですか?」


湊様に目を向けると、そっと私を制止して「なんでもないよ。喉が渇いたから食堂に向かおうと思って」と微笑んだ。


「え、ええ。そうです。美乃麗様もご一緒にいかがですか?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」


食堂に入り、ユリウスに飲み物を頼む。


「4人分お願いいたしますわ」
「承知いたしました」


お辞儀をして去っていくユリウス。すると美乃麗様が言った。


「3人じゃないですか?だってここには僕たちしかいませんよ?」

「そういえば透くんがいないね」
「……えっ?」





〈透side〉
偽装したメモ、荒らした部屋、それからナイフ。
もしここで人が死んでいたら私以外の人間が殺したかのような状況だ。

準備を整えた私は、ナイフを手に持ち、自分に向ける。
そして、私はそのナイフを自分につきたてようとした


「君ってば懲りないね〜」


壱岐染さんが私の腕を掴んだ。


「死んだら終わりじゃないか。さぁ、そのナイフを下ろして?」
「……わかりました」


大人しくナイフを下ろすと、壱岐染さんはホッとした様子だった。
その瞬間、私は今度こそ、壱岐染さんに向かって、そのナイフを突き立てたのだった。





〈弥宵side〉

嫌な予感がした私達が透様を探すと、血の匂いがする部屋があった。


「入りますわよ!」


3人で扉を開けると、そこには、血まみれの床に倒れたかがり様と、血の付いたナイフを持つ透様の姿があった。


「これは、一体…」


呆然としていた透様は私たちを見た。



「…私が、彼女を殺しました」




【???】
ガサツなトリックだ、すぐ見破られるよと言うと「それでも希望を持ってみたい」なんて言う。
自殺しようとした人間が希望なんて言うから笑ってしまった。
首元の薬を飲む。
かつて人を殺した失敗作だ。





「生きてなきゃ何もできないよ。だから、君は明日を生きてくれよ。

僕の希望、君に託すね」



【願い】
一度だけ、調合ミスで一人の人間を殺めたことがある。
自分の望みは自分で叶えてきた。
だから他の誰かに願うことといえば、その人を生き返らせる…ことになるのかな。
でも、人を殺して叶えようとは思わない。
一人でも多くの命を救うことが、僕の生きる意味であり、贖罪だから。




「だからさ、目の前で自ら命を落とそうとしてる君を、放っておけなかったんだ」



【5章自殺】
超高校級の製薬研究者 壱岐染かがり

【願い】
自分の試作品で殺してしまった唯一の患者を甦らせること

[img]



「私が殺したんです!私が!こんなの、私が殺したようなものじゃないですか……」


すると、橘さんは私の元に近づき頬を殴ってきた。


「ええ!あなたのせいです!」
「落ち着きなさいよ!」


豊島さんが橘さんを止める。



「あなたが殺したんです。だから、かがり様の、皆様の分まで生きてください」




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