館論破

第3章『協奏曲』

館論破
3章『協奏曲』


「人間とは、臆病な生き物です。
それは生きるための本能であり、理性です。
臆病でない、所謂向こう見ずな人間は死にやすい。
しかし、臆病だから人は人を攻撃し、人から遠ざかり、人を殺すのです……」



『ここはひとつ、ゲームを行いませんか?』



地図が公開されました。[ 4階 ]



松尋さんは裁判の時とは打って変わって静かになった。
豊島さんが何かを話しかけると言葉は返すものの若干覇気がない。
新しく解放された舞台に一番目を輝かせたのは篠芽さんだ。


「みんなで劇をやりませんか?きっと楽しいですよ!」


そこに闇憧さんが「劇を見られるのですか?!」とワクワクした表情で言った。
結果、篠芽さんと松尋さんと、なぜか豊島さんが劇をすることになった。

予想がつくようなつかないような展開になってきたと感じた私は、アートルームで一人、絵を描いていた。
集中して描いていた私は、背後から近づく松尋さんとレオさんの気配に気づかなかった。


「おい」
「うわっなんですか、驚かせないでください」
「驚いた言う割には驚いたように見えへんな〜」


二人はアートルームにある椅子に座った。
二人とも座り方は雑だが、育ちの良さが出ていた。


「貴方、もう良いんですか」
「あ?火渡のことか……まだ、許してねえよ。あいつのことも、俺のことも」


松尋さんは拳を握った。怖い。


「でも、ほら言うだろ?『無くしていい過去なんてねえ』ってよ。言ってたのパスタ野郎だけど」


そう言って不器用に松尋さんは笑った。


「無くした方がええ過去だってあるんとちゃいます?」
「そう思えるほどの過去があるってことだよ。ってなわけで、説教代にこれ貰っていくからな」


といたずら顔で描いていた絵を持って行ってしまった。


「自由な人やな〜。あれ、何が描いてあったんです?」
「なんとなく、思いついた花の絵を描いていただけで……梅の花と、百合ですよ」


レオさんは「ふーん」と伸びをした。


「なら、薔薇も描いてくれまへん?」

「金取りますよ」
「手厳しいわぁ。まあ、自分も説教する柄じゃありまへんし」





〈弥宵side〉

「あっ!橘さん!もうちょっと右です!あっ行き過ぎです!」
「む、難しいですわね!こうですか?」


美乃麗様と一緒に舞台の飾り付けをしていた。ようやくOKが出たので、そこに幕の布を止める。


「ありがとうございます。これで、舞台の飾り付けは終わりです」

「つっかれた……」
「おやっとさぁ!」
「お疲れ様ですわ。美乃麗様、律音様、山藤様」
「はー、結構ぽくなったんじゃねえか?」


律音様は舞台の席にどかっと座ってゲーム機を取り出した。


「そうですね、ご協力ありがとうございます。僕は豊島くんたちがシナリオを持ってくるまで、奈落の様子を見てきますね」
「ん?奈落?」


山藤様が問いかけると美乃麗様が答えた。


「歌舞伎で使う、地下空間のようなものですよ。すごく広くて暗いんです」
「そんた楽しそう!」
「……館の建物の構造的には、ありえないんですけどね。ああ、舞台が始まるのは多分稽古が終わる頃だから3時間後ですね」
「あたいも奈落に連れて行って!」


山藤様が目を輝かせると、クスッと笑った美乃麗様が「わかりました」と了解し、二人は舞台の袖の奥へ行った。



『あーあー、聞こえるー?ミカエルだよ』



突然、放送が流れた。


『みーんな仲良しこよししちゃってさ、僕、超つまんないんだよね。
ゲームを楽しんでるのは君たちだけじゃないんだからさ。
で、今回に限り、共犯ルールを付け加えるよ!』

「共犯ですって?!」

『片方がクロだとバレなければ両方の願いを叶えてあげる。僕ってばやっさしーい!じゃ、せいぜい頑張ってね!』

「……っ!こんなこと!」


拳を握りしめると、律音様は言った。


「お前さ、なんでそこまで人のために頑張れるの?
どんなに頑張ったって認めてもらえるとは限らないだろ?」

「……認めていただけるかは、私もわかりません。
でも、自分のできることを全力でやりたいんです!
心配してくださってありがとうございます。律音様は優しいんですね」


舞台を出て行く。きっとまだできることがあるはずだ。


「優しい?……臆病なだけだ」


律音様の声は聞こえなかった。





〈透side〉

「似合ってるんじゃないですか?」
「お?まーな!」


歌舞伎の衣装に身を包んだ松尋さんは別の世界の人間に見えた。


「ミサンガ、外さないんですね」
「ああ、これだけは外さねえ。……守りたいもん守って悪いかよ」
「……そんなほほ笑むような表情するんですか、意外です」
「見てんじゃねーよ!じゃあな」


そう言って、松尋さんは舞台に向かった。


「……私も観客席に向かいますか」




【???】
物音がした。
「誰かいるのか?」と尋ねると、足元を照らす微かな光が消える。
瞬間、大量の音が響き、身体に痛みが走る。
閉じ込められたあの日がフラッシュバックする。
反撃しようと、暗闇の中誰かの腕を掴んだ。
殴りかかろうとした時、激痛と共に意識を失った。




全員が観客席に座っている。

電気が消え、豊島さんが「アタシたちのショー、目に焼き付けていきなさいよぉ!!」と舞台上声をかけると、一部の舞台の床が割れて、誰かが奈落から上がってきた。




【願い】
小さい頃にいじめを受けていた。
性別と違うことをやっているのが気に食わなかったらしい。
そんな俺を庇ってくれたあの人は、励ますようにミサンガ作りを提案してくれた。
ずっと尊敬している、かけがえのない、大切な人。
あのミサンガは、まだ切れないままだ。

【3章シロ】
超高校級の歌舞伎役者(女方) 永谷園松尋

【願い】
兄の望みを叶えること




エレベーターは登っていく。
今回は今までと違って、共犯ルールがある。一体どうやって松尋さんを殺したのだろうか。




【???】
大丈夫、二人でやればきっとバレない。
大丈夫、大丈夫。
腕を掴まれた時にはどうしようかと思ったけど……うまく隠せているはずだ。
震える手を握りしめてくれた。
大丈夫、二人で願いを叶えるんだから。
私達は一人じゃない。

【願い】
文字通り、致命的なミスだった。
人を巻き込んだ事故を起こしたと知られれば、もう二度と自分は仕事ができなくなるだろう。
今はどうにか真相を揉み消してもらってはいるけれど、いつバレてしまうかわからない。
怖い。
消してしまいたい。

【願い】
『自分を見つけろ』と言われた。
そうしたらもっと上手くなれる、もっと上に行ける。
恩師のその言葉を胸に、自分を探してみたけど、そんなのどこにも見当たらない。
わからない。
ここならわかるの?なら教えてよ、『私』はなに?

【3章クロ】
超高校級の発破技師 李・山藤
【願い】
過去に自分が原因で起こした事故を無かった事にしてほしい

【3章クロ】
超高校級の吹奏楽部 沙羅那由多
【願い】
『自分』が欲しい

[img]



「このクソアマ共!!松尋を殺しやがって!!ぶっ殺してやる!!」
「イッコー様!落ち着いてください!!」


橘さんを中心として何人かで豊島さんをどうにか止めている。


「仕方なかやろう。あたいらは未来を歩んために、願いを叶えよごたっただけ」


山藤さんの言葉に沙羅さんも「そうだよ」と同意した。


「ただ、自分を見つけたかっただけ!ただここから出るだけなんて、何も変わらないじゃない」
「言い訳してんじゃねえ!この人殺しが!!」


豊島さんの怒号に二人は怯えた。しかし、ずっと山藤さんの奥にいた沙羅さんは言ったのだ。


「あんただって、願いのために人を殺せるって言ってたじゃない」


こうして、二人はオシオキされた。

…………自分とは、なんなのだろうか。
橘さんは「それでも、死んでいい人なんていないんです」と目を瞑った。



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