館論破

第2章『叙唱』

館論破
2章『叙唱』

「家族ってさ、血の繋がりがあるってだけの他人なのに、他の人間とは別の感情を抱くでしょ?
家族愛ってやつ?そんな小さい頃の刷り込みに、一体なんの意味があるんだろうね。
えっ?ユーリと僕は兄弟じゃないのかって?うーん、秘密!」



『みんな死にたくないと言っていたではありませんか』



地図が公開されました。[ 3階 ]


ゲームセンターが開くと、多くの人はゲームセンターに集まるようになっていた。
このいつ殺されるかわからない閉鎖空間のなかで、多種多様なゲームは私たちの気を紛らわせるのにうってつけだった。


「貴方たちは行かないんですか?」


私が尋ねたのは超高校級のサイキッカー、鈎湊と超高校級の吹奏楽部、沙羅那由多。


「僕は見てる方が好きだから」
「…あそこ、冷房が効き過ぎて寒いんだよ」
「なるほど……」


無言。静かすぎる空間にある二人組が入ってきた。


「ダメだろう!あんなことしちゃ!」
「いやー!傑作だったな!!」


現れたのは永谷園兄弟。
なんでも、松尋さんがゲームセンターでカラーボールを投げたいたずらをしていた、と一等カラフルになった豊島さんが語っていた。
「ほら、豊島君に謝らなきゃ!」と梅浩さんが松尋さんに言うと松尋さんが怒鳴った。


「はぁ?!なんで俺が謝んなきゃいけねえんだよ!」


松尋さんが不意に腕を動かした。
腕は梅浩さんに当たって、梅浩さんは倒れてしまった。
一瞬、松尋さんはしまった、という顔をしたが、後に引けなくなったようで、「くそっ」とどこかに行ってしまった。


「なにごとじゃ、騒がしい」
「なんだよ、うるせーな」


1階から火渡さんと旋さんがやってきた。


「なんでもないよ」


と梅浩さんは笑った。
ゲームセンターは酷い有様らしく、当分入るのは控えようという結論に至った。
全員が散らばる中、私と梅浩さん以外に一人だけソファでじっとしている人がいた。


「……沙羅さん?」
「!……なに?」


沙羅さんは身体をぎゅっと抱きしめていた。


「……なんとなく寒くなっただけ。気にしないで」
「さんかと?じゃあおもしてかもんを見せちゃる!」


パァン!という風船の破裂音を響かせて山藤さんがやってきた。
風船の音に呆気にとられたらしい沙羅さんを手を引いた。
微笑ましい光景だと思う。
しかし、もう2度とあの破裂音は心臓に悪いので聞きたくない。
梅浩さんは「平和だね」と言った。


「コロシアイが起きているのに?」
「誰も死なないなら、それに越したことはないよ。それに、ここには悪い人間なんていないって、俺は信じてるから」


梅浩さんはそう言って1階に降りて行った。
一人になってしまった。
天井を眺めているとビデオカメラを持った橘さんが通りがかった。


「と、透さま?!」
「そんなにびっくりしますか?」
「え?!えーっと……生きている人間の気配がしなかったので」
「勝手に人を殺さないでください」


橘さんがおろおろとした後、意を決した顔をした。


「透様にお願いがあります。もし、これから殺人が起きた時、一緒に調査していただけませんか?」
「……どうして、私なんですか?」
「えっ、あっ、それは……」


橘さんはまた視線を彷徨わせた。


「その、なんていうか、見張ってないと透さまはすぐに死んでしまいそうで……いや!透様が弱いと言ってるわけではありませんよ!ただ透さまは筋肉もなくて持久力もなくて足も遅いだけで!」

「貴方が言いたいことはわかりました」


橘さんは慌てて弁明ではない弁明を告げた。


「と、とにかく!協力しませんか?ルシエル様も言っていた通り、私たち全員で協力するべきです!」


彼女の提案はかなり都合が良かった。


「……まあいいですよ。私なんかでよければ」


こうして、私たち二人はタッグを組むことになったのだった。



【???】
「手伝ってくれる?あはは、ありがとう。
……あんなこと言ってたけどさ、アイツは本当は良い奴なんだ。
今は喧嘩っぽくなっちゃったけど、掃除が終わったら一緒に謝ろうと思うんだ。
みんな良い奴だから許してくれるだろうし、なにより、オレは弟を信じてるし大好きだから。………えっ?」



「なあ、嘘だろ、おい、起きろよ兄貴!兄貴!!!!」


松尋さんの怒号が聞こえて駆けつけると、そこには………




「死体が発見されました」



【願い】
幼い頃からずっと正義の役をしてきた。
だから知っている。
この世は正義で満ち溢れているべきで、悪は存在してはいけないこと、悪いことはしちゃダメなこと。
悪いことがなくなれば、きっとアイツはもっと笑ってくれていたはずだから。

【2章シロ】
超高校級の歌舞伎役者(立役) 永谷園梅浩

【願い】
この世から悪が消えること




二度目の裁判。

生き残るためには真実を見つけなければならない。
壱岐染さんが「頑張りなよ、過去は変えられないんだからね」と言った。
呑気なものだ。

「どうして」と言って男は事切れた。
ミサンガが血で染まる。
同じ理由だ。
掃除をするか、人を殺すかだけの違い。
かけがえのない家族のために、大切な肉親のために。

この手を汚すことは厭わない。
そうだろう?だから…




「わかってくれるな?」




【願い】
小さい頃からずっと見てきた。
あの子は血族の中でも末端というだけで、人でないような扱いを受けていた。
それでもなお、あの子は希望を捨てなかった。
世界を疑わなかった。
…あの子に少しでも幸せになってほしいと願うのは、当たり前のことではないだろうか。

【2章クロ】
超高校級の燈籠職人 火渡緋那

【願い】
橋渡守の幸福

[img]



「てめえ!なんで兄貴を!」
「まっつん!落ち着いて!」

「……妾とて、彼奴の純粋さは好ましく思っていた。
だが、それ以上に、家族を幸せにしたかった。
ここにはいない誰かを守りたかった。
分かってほしいとは言わない。
守を思う気持ちに嘘偽りはない。

お主には否定できまい、のう、松坊?」


火渡さんはオシオキされた。
人は誰かのために人を殺せるのだ。
鈎さんは「幸せにしたい誰かがいることが、一番の幸せだと思うな」と言った。

その意味を聞くことはできなかった。



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