「……御機嫌よう、お客様。
これからお話し致しますのは、願いを持つ17人の生徒たちが織りなすコロシアイゲーム。
こんな月の光る夜にふさわしい物語を、どうぞお楽しみくださいませ……」
館論破
0章『前奏曲』
客室のベッドで目を覚ました。
何時間も眠っていたような気がするのに、窓の外で大きな月が部屋をおぼろげに照らしていた。
「やあ、子猫ちゃん。お邪魔するよ」
そう言って超高校級の軍人、イングベルト・フォン・ルントシュテットは部屋に入ってきた。
「今起きたばかりの君は気づいていないだろうけど、もうずっと夜のままなんだ。……もしかしたら、って期待はしたんだけどね。外に出ようとしても出られなくて」
彼は窓の外の月を見つめた。
「朝が恋しいよ。……さあ、食堂へ行こうか!みんなが君を待ってるよ」
振り回されるままに手を引かれて食堂に向かう。
全員が席についていた。
同じように席に座ると、超高校級の指導者、ルシエル・ラトリアが声をあげた。
「全員揃ったみたいですね。どうやら私たちはこの館に閉じ込められてしまったようです」
場がざわめくのを彼は片手を上げて鎮めた。
「この館に招待されたのは16人、この中に1人、この館の主人がいたはずです。……問題は、誰がその館の主人なのか」
館の主人。
全員が顔を見合わせるが、『誰も館の主人が誰なのか思い出せないでいた』。
困惑と疑惑が支配する中、2人の使用人が声をかけてきた。
「失礼します、お客様。私、使用人のユリウスと申します」
「同じく使用人のミカエルだよ。僕たちは館の主様から伝言を預かってきたんだ」
使用人のユリウスとミカエルは、館の主人が開催したというコロシアイゲームについて全員に説明した。
今から50日後に裁判を行う。
その裁判で館の主人を見つけられれば、その時に生き残っていた者は外に出す。
それまでに誰かを殺して学級裁判を行い勝利した場合には、願いをかなえると言うのだ。
願い……そう、私には叶えたい願いがある。
【願い】
ただ認めてもらいたかっただけだ。
描くことが好きで、ずっと描いていたいのに、両親は認めてくれない。
どこかの誰かに盗作だと疑われたこともある。
すべては自分に才能がないから。
自分らしささえあれば、他人に認めてもらえるだけの才能があれば……
【主人公】
超高校級の水彩画家 雪村透
【願い】
他人に認められるだけの才能を得る
「待ってください!」
超高校級の極道、橘弥宵が大声で立ち上がる。
「誰かが死ぬことなど、あってはなりません!ここは全員で協力すべきです!」
弥宵さんの決意と希望に満ちた言葉に多くの人は頷いた。
【相棒】
超高校級の極道 橘弥宵
そんな弥宵さんの言葉にあくびを漏らしたミカエルをたしなめたユリウス。
「しかし皆様、すでにゲームは始まっています。皆さまがゲームに積極的に参加していただけるように促すのも、使用人の務め。ここはひとつ、お客様1名を見せしめとして……」
「そんなことはさせないよ」
銃声。使用人のユリウスが頭から血を流して倒れる。殺したのは……銃を構えたイクトさんだった。
「一般人を巻き込んでのプレイは感心しないね。一般市民を守るのも軍人の役目さ」
静まり返っていた空気がまた混乱する。それを破ったのはミカエルだった。
「ユリウス、なに遊んでるのさ。早く起きなよ。お客様が自ら死にたいって言ってくれたんだから!」
すると、ユリウスはくつくつと笑いながら起き上がった。
「ふふふ、申し訳ありません。少々お客様の茶番に付き合わせていだだきました」
頭を撃たれた人間が蘇る。誰もが目を見開いた。
「それでは、イングベルト様。お仕置きを開始します」
「最初だからね、存分に楽しんでいってよ!」
【願い】
誰にも認めてもらえなかった。
ずっと家族は兄さんばかり褒め、叱り、愛していた。
周りの人間も、僕の家柄ばかりで、僕を見ない。
それなのに、みんなに期待されて愛された兄さんは失踪した。
みんな悲しんでいた。
昔、僕が家出しても無視していたのに。
ずるいよ、憎いよ。殺してやる。
【見せしめ】
超高校級の軍人 イングベルト・フォン・ルントシュテット
【願い】
兄を自分の手で殺したい
[img]
超高校級の軍人がなすすべもなく殺された。
この時、多くの人間は使用人たちが現実離れしていることを実感した。
同時に、この非現実的な彼らなら、私の願いを叶えてくれるのではないかという希望が、私の心の中で芽生えてきた。
……私は、弥宵さんがじっと私の方を見つめているのに気づかなかった。